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「種牡馬の墓場」で花開いた快速の血…サクラバクシンオーの父としても知られるサクラユタカオーの蹄跡【競馬クロニクル 第48回】

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「種牡馬の墓場」と呼ばれてた日本のサラブレッド生産

 かつて日本のサラブレッド生産は、海外メディアから「種牡馬の墓場」と呼ばれていた。大枚を払って輸入した名馬であっても、すぐに成績が出せないとあっさり見捨て、そのサイアーラインは2代、3代と続かず、“極東の島国”で潰えてしまったからだ。

 実際には欧米でも4代、5代と太いラインで発展、継続する父系は決して多くはなく、何より特定のサイアーラインの発展が進みすぎると“血の飽和”が起きて行き詰まるのが競走馬生産の宿命。そんななかで、あえて日本を「種牡馬の墓場」と呼んだのは、1990年に沸き起こった日本のバブル景気を揶揄した“アジア差別”を背景としていたのも確かだろう。

 2016年の高松宮記念(G1)とセントウルS(G2)を制し、2018年から北海道・新ひだか町のアロースタッドに繋養された種牡馬にビッグアーサーがいる。重賞勝利後の成績が優れなかったこともあって、ファンからは大きな注目を集めることなくスタッドインしたが、生産地の人気は種付料の手頃さ(受胎条件で100万円)も手伝って、初年度から164頭もの繁殖牝馬を集める、隠れた人気種牡馬となっていた。

 ビッグアーサーは、2019年に155頭、2020年に135頭、2021年に107頭とコンスタントに3桁の交配相手を集め、2022年こそ85頭に減らしたものの、その年に産駒から重賞勝ち馬を出したことから、2023年には種付料が150万円に値上げされたのにもかかわらず155頭もの繁殖牝馬を集め、生産の現場では再びじわじわと人気を取り戻している。

 そのビッグアーサーから父系を3代さかのぼると、「テスコボーイ」という名前に突き当たる。

 テスコボーイは1963年に英国で生まれ、G1級の勝利はロイヤルアスコット開催のクイーンアンSのみだったが、父が名馬ナスルーラ(Nasrullah)の後継種牡馬として期待されたプリンスリーギフト(Princely Gift)、母の父が英ダービー馬のハイペリオン(Hyperion)という優秀な血統が評価され、日本で繋養された。

 種牡馬としてのテスコボーイは期待に違わぬ活躍を見せた。

 初年度産駒のランドプリンスが皐月賞を制すると、キタノカチドキ(皐月賞、菊花賞)、テスコガビー(桜花賞、オークス)、“天馬”とまで称されたトウショウボーイ(皐月賞、有馬記念)と、続けざまにトップホースを輩出。1970年代に4度のリーディングサイヤーに輝き、農協が所有しているがゆえ種付料が安価でありながら産駒が高値で取引されるため、種付けの申し込みが殺到。権利は常に順番待ちの状態になるほどの人気を博し、日高の生産者を大いに助けた。

 そのテスコボーイが晩年の1982年に送り出したのが1902年創業の名門、北海道・静内町(現・新ひだか町)にある藤原牧場で誕生した牡駒、サクラユタカオーである。

 幼名「テスコジェリカ」と呼ばれたのちのサクラユタカオーは、スターロツチ(オークス、有馬記念)、ハードバージ(皐月賞)、のちにサクラスターオー(皐月賞、菊花賞)、ウイニングチケット(日本ダービー)などを出した藤原牧場が大事に守り続けてきた「クレイグダーロツチ系」の貴重な母系と配合した甲斐あって、見事な馬体を持って生まれた。当時の場長、藤原祥三はその様子を「馬格雄大、骨有品位に富む、大物の相…」などと台帳に書き留めている。

 ただ祥三が気になったのは、ひとつのジンクス、もしくは“云われ”とでも呼ぶべきことだった。それは「テスコボーイ(産駒)の栗毛は走らない」、である。次々と大レースを制するテスコボーイの仔たちだったが、不思議と栗毛の産駒からは大物が出なかった。そのため祥三は台帳に「栗毛、イカン(如何)ともし難し」(栗毛に生まれたことはどうしようもない)と記し、毛色に対する無念さを表していたのである。

 しかし、藤原祥三の落胆はいい意味で裏切られる。

 1984年12月の新馬戦をレコードタイムで快勝すると、2戦目も2着に1秒2もの差を付けて圧勝。3歳初戦となった共同通信杯4歳S(G3、現・共同通信杯)にも勝利して無敗の3連勝を達成したが、骨折が判明して休養入り。菊花賞(G1、4着)には間に合ったものの、春季クラシックを棒に振る惜しい1年となった。

 しかし4歳の秋、脚部不安が解消して、いよいよ本格化したサクラユタカオーは、そのポテンシャルを爆発させる。

 毎日王冠(G2)を従来の1分46秒4という記録を0秒4も更新するコースレコードの走りを見せると、続く天皇賞・秋では中団から鋭い末脚を繰り出して圧勝。このとき記録した1分58秒3も従来の記録を破るコースレコードだった。

 総額5億円(1000万円×50口)という当時としては高額なシンジケートが組まれ、三顧の礼をもって日高地区の静内スタリオンステーションに迎えられたサクラユタカオーは種牡馬としても大成功を収める。サクラキャンドル(エリザベス女王杯)、エアジハード(安田記念、マイルCS)、ウメノファイバー(オークス)、タムロチェリー(阪神ジュベナイルF)、ロジック(NHKマイルC)、クィーンスプマンテ(エリザベス女王杯)と、実に多彩なG1ホースを送り出した。そのなかで、もっとも忠実にサクラユタカオーのスピード能力を伝えたのが2年目の産駒で、1993・1994年のスプリンターズSを連覇した稀代のスプリンター、サクラバクシンオーだった。

 生産が社台ファーム早来だったとはいえ、社台グループの強い要望をもって内国産馬としては異例の社台スタリオンステーション繋養種牡馬となったサクラバクシンオー。彼は社台グループの良質の繁殖牝馬を多く配合されたこともあり、期待どおりに産駒は父からスピードをよく受け継ぎ、多くの重賞勝ち馬を送り出す成功を収めた。

 輩出したG1ホースは、ショウナンカンプ(高松宮記念)、グランプリボス(朝日杯フューチュリティS、NHKマイルC)、そして2016年に高松宮記念を制したビッグアーサーである。

 24日に行われる高松宮記念(中京・芝1200m)には、京成杯、オーシャンS(ともにG3)を連勝中のビッグアーサー産駒、トウシンマカオ(牡5歳、美浦・高柳瑞樹厩舎)が上位人気での出走を見込まれている。もちろん彼はG1未勝利だが、ここでタイトルを掴めば自ずと種牡馬への道が開けてくる。サイアーラインを見ると、テスコボーイから数えて4代目となる。もうすでにこのラインは「種牡馬の墓場」と言われるような云われはない。細々とでもいい。この貴重なサイアーラインを先に繋げていけるかどうか、トウシンマカオの走りを楽しみにしている。(文中敬称略)

三好達彦

三好達彦

1962年生まれ。ライター&編集者。旅行誌、婦人誌の編集部を経たのち、競馬好きが高じてJRA発行の競馬総合月刊誌『優駿』の編集スタッフに加わり、約20年間携わった。偏愛した馬はオグリキャップ、ホクトヘリオス、テイエムオペラオー。サッカー観戦も趣味で、FC東京のファンでもある。

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