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蛯名正義、横山典弘が喜びを分かち合った「唯一無二」のオークス同着…アパパネとサンテミリオンが繰り広げた「長過ぎる直線」の攻防

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 1996年のスプリンターズS(G1)。逃げ込みを図るエイシンワシントンと、直後からそれに並びかけたフラワーパークはピタリと馬体を併せ、ほとんど同時にゴールを駆け抜けた。長い写真判定が続くあいだ、ターフビジョンには繰り返しゴールシーンが映し出され、そのたび判断がつかない満場のファンから「おーっ」「あーっ」というため息に似た声が上がった。

 そして10分あまり経ったころ、ようやく着順掲示板に数字が灯り、ハナ差でフラワーパークに軍配が上がったことを示した。JRAが「推察すれば」というエクスキューズ付きで示した見解によると、その差は1~2cmという歴史的大接戦だった。

 現場にいた筆者は2頭の激闘に痺れた頭で、「これを超える接戦は、もう同着しか有り得ないな」と夢想したことを覚えている(正確に言えば、同着は接戦ではないのだが)。

 その夢想が現実になったのは14年後、2010年のオークス(G1、東京・芝2400m)でのことだった。

 2010年の牝馬クラシック戦線は混戦模様だと見られていた。2歳女王を決定する前年の阪神ジュベナイルF(G1、阪神・芝1600m)は、1番人気のシンメイフジ、3番人気のタガノエリザベートはそれぞれ5、6着に敗戦。かわって勝利をものにしたのは、未勝利戦、500万下特別を連勝して臨んだ2番人気のアパパネ。ここでようやく主役候補が見えてきた。

 そのアパパネは、栗東トレーニングセンターへの“留学”経験を持つ国枝栄調教師のもと、短期ながら関西にベースを移し、チューリップ賞(G3・当時、阪神・芝1600m)から始動した。単勝オッズ2.2倍の1番人気に推されたこのレース、先行策からソツなく抜け出したが、そこを強襲したオッズ39.0倍9番人気のショウリュウムーンに3/4馬身差されて2着に敗戦。しかし、プレップレースとしては順調な滑り出しだと陣営は捉えていた。

 迎えた桜花賞(G1、阪神・芝1600m)。単勝オッズ2.8倍の1番人気に推されたアパパネは、5番手の好位を確保。そして第4コーナー手前から位置を押し上げながら直線へ向くと力強く末脚を伸ばし、逃げ粘るオウケンサクラを半馬身差し切って優勝。まずは“一冠”を手にした。

 アパパネが桜花賞制覇に向かうあいだ、関東ではユニークな路線を歩む有力牝馬がいた。新進気鋭のトレーナー、古賀慎明調教師が手掛けるゼンノロブロイ産駒、サンテミリオンである。

 新馬戦、500万下特別を連勝したサンテミリオンは、デビュー3戦目にしてフラワーC(G3、中山・芝1800m)で重賞に初挑戦。好位から脚を伸ばして、オウケンサクラの3着に好走。しかし、彼女は距離適性などを鑑みて桜花賞へは進まず、オークスにターゲットを絞ったローテーションを組んだ。

 サンテミリオンは次にフローラS(G2、東京・芝2000m)に出走する。単勝オッズ1.9倍の1番人気に推されると、2番手から抜け出して2着にきっちり1馬身の差をつけて快勝。胸を張ってオークスへ歩を進めた。

 別々のシュプールを描いた2頭の優駿は、いよいよ牝馬クラシックの二冠目、オークスという大舞台で顔を合わせることになる。

アパパネとサンテミリオンが繰り広げた「長過ぎる直線」の攻防

 雨で稍重というコンディションで迎えたオークス。単勝1番人気はオッズ3.8倍のアパパネ。以下、チューリップ賞の勝ち馬で、桜花賞4着のショウリュウムーン、桜花賞2着のオウケンサクラ、桜花賞5着のアプリコットフィズと、桜花賞組が上位を占める。そうした状況のなか、別路線を歩んだサンテミリオンはオッズ8.5倍の5番人気となった。

 レースはニーマルオトメの逃げで始まり、大外の18番枠からスタートしたサンテミリオンは中団の7番手、17番枠から出たアパパネは後ろ目の9番手を進む。1000mの通過は60秒6と、馬場状態を鑑みるとやや速い。第3コーナーを過ぎると、後続馬群は前との差を詰めながら直線の勝負に入る。

 まず抜け出してきたのは、道中2番手を進んでいたアグネスワルツで、インからはアプリコットフィズが伸びてくるが、それを外から強襲したのがサンテミリオンとアパパネ。2頭は最後の100mにわたって馬体を併せての競り合いを繰り広げた末、まったく並んでゴールした。素人目にも、いわゆる「首の上げ下げ」の勝負になったことが分かるほどの激闘だった。それは当事者も同じで、横山典弘騎乗のサンテミリオンも、蛯名正義騎乗のアパパネもウイニングランはせずに地下馬道へと引き揚げていった。

 果たして1着はどちらか。写真判定の結果はなかなか示されず、際どい勝負になったことがそれによって窺われた。そして、ゴール後12分ほど経った瞬間に掲示板に二つの文字が灯った。「同着」。その瞬間、スタンドは弾けるような歓声に包まれた。

 判定結果が出た直後に行われた、検量室前での勝利騎手インタビューでは、満面の笑みを浮かべた二人が肩を組みながら質問に答えた。横山が「体勢は良かったし、正義が『おめでとう』と言ってくれたんで勝ったかなと思いながら帰ってきました」と話せば、蛯名は「いやー、負けたかなぁと思ったんですが、負けなくて良かったぁ!」と安堵の表情を見せていた。

 表彰式は2頭合同で行うというわけにもいかず、1頭ずつ2回に分けて実施。こちらも長い表彰式となった。

 これがいまもG1レースで史上初にして、いまも唯一の1着同着となった第71回オークスの経緯である。アパパネはこのあと秋華賞(G1、京都・芝2000m)を制して、JRA史上3頭目の牝馬三冠を達成した。そのほかに付け加えるならば、単勝、馬単、3連単を当てたファンの「配当が半分になっちゃったよー」と嘆く様子を何度か見聞きしたことである。
(文中敬称略)

三好達彦

三好達彦

1962年生まれ。ライター&編集者。旅行誌、婦人誌の編集部を経たのち、競馬好きが高じてJRA発行の競馬総合月刊誌『優駿』の編集スタッフに加わり、約20年間携わった。偏愛した馬はオグリキャップ、ホクトヘリオス、テイエムオペラオー。サッカー観戦も趣味で、FC東京のファンでもある。

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