後世の名牝に「道」を示した女傑エアグルーヴ「名牝ダイナカールの孝行娘」の独り立ちは夏の風物詩・札幌記念から始まった
だがその反面、この3頭が1990年代を代表する名牝であることは紛れもない事実。つまり当時は、あくまで「牝馬の中だけ」で名牝の地位が築かれた時代だった。だからこそ、この札幌記念の単勝1.8倍もエアグルーヴの能力というよりは、まだどこか底知れない可能性を持った新勢力に対する畏怖や期待の表れだったといえる。
しかし、エアグルーヴが2着に2馬身1/2をつけて完勝した時、人々の彼女への期待はいよいよ”本物”になりつつあった。外を回りながら、直線であっさりと抜け出したその走りには「夏は牝馬」の一言では片づけられない、圧倒的なパフォーマンスがあったからだ。
それでも、その後のエアグルーヴが牝馬として17年ぶりに秋の天皇賞を勝つなど、ましてやその年の年度代表馬になることなど、誰もが想像していなかったはずだ。繰り返しになるが、それくらい当時の牝馬の”可能性”は限られていたのだ。
だが、エアグルーヴは前年の覇者バブルガムフェローとの壮絶な叩き合いを制して天皇賞・秋を制覇。それは衝撃に包まれた当時だけでなく、その後の競馬界にとっても「極めて優秀な牝馬であれば、牡馬の一線級を負かすことができる」という”事実”を示した、極めて大きな勝利だった。
この勝利がなければ、ウオッカの日本ダービー制覇を含めた、近代競馬に燦然と輝く女傑の活躍はなかったかもしれない。
どれだけの能力を秘めようとも「挑戦」しなければ、可能性はあくまで可能性のままだ。そして、エアグルーヴの勝利は後の多くの牝馬に勇気をもたらし、彼女たちの可能性を後押しした。いわば”女性の地位向上”に著しく貢献した勝利だったといえる。
その後、エアグルーヴはジャパンカップ、有馬記念、宝塚記念と一線級の牡馬と互角以上の戦いを続けながら、翌年の札幌記念を連覇。ちなみにこの時は牝馬ながら58㎏(牡馬換算60㎏)を背負って勝利している。
ちなみに21世紀の競馬を代表する名牝ウオッカ、ダイワスカーレット、ブエナビスタ、ジェンティルドンナには58㎏どころか57㎏以上を背負っての勝利が一度もない。
これだけを見ても、エアグルーヴが当時如何に「規格外の名牝」だったのかがわかるというものだ。
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