JRA“先輩”へ特別戦初勝利をプレゼント‼後輩に「風呂場でまちぶせ」されたアノ調教師は競馬界の“師弟物語”に新風を吹き込むか?
28日の札幌競馬9Rルスツ特別で、2番人気のモンテディオが勝利。騎乗した池添謙一騎手は、同馬を管理する四位洋文厩舎に特別戦初勝利をプレゼントした。
レース後は「少し早めに動く、難しい展開になった」と振り返った池添騎手は続けて、「何よりジョッキー時代にお世話になった四位さんの馬で初めて勝てたのでよかったです」とコメント。四位厩舎の特別戦初白星は、池添騎手自身にとってもこのコンビで挙げた初白星となった。
ゴールの瞬間、池添騎手は左手の拳を握って渾身のガッツポーズ。自身のツイッターでもその喜びを表現しており、「四位厩舎で初勝利」と記して、ゴール直後の写真を掲載している。
「デビューした当初から、四位さんには何かと相談に乗ってもらっていました」と語る池添騎手。そんな二人の年齢差は7つ違い。後輩の池添騎手にとって四位調教師はさしずめ、ちょっと年の離れた“兄貴”的な存在だろうか。
池添騎手に限らず、四位調教師を慕う年下のジョッキーは多い。4歳下の福永祐一騎手は、記念すべき四位厩舎のデビュー戦となった今年3月6日の阪神3Rに騎乗。5番人気ながら4着に入り、結果は“4位”で話題となったものの、「四位さんの初陣でいつも以上に気合が入った。一緒にスタートを切れてうれしい」とコメントしている。
また、池添騎手と同じ7歳年下の秋山真一郎騎手は、四位調教師が騎手を引退する際に寄せた発言で、過去に「風呂場で待ち伏せ」していたことを告白。尊敬する先輩と風呂場で2人きりになるタイミングを見計らい、競馬についていろいろと教えてもらったという。
このように四位調教師が慕われる一番の要因は、29年間の騎手人生から通じて今も変わらぬ、後輩ジョッキーの面倒見の良さにある。
例えば2020年2月29日、四位洋文ジョッキー最後の日となった引退日には、競馬場にいたひとりの少年に自身の鐙をプレゼント。その少年こそ、翌日に騎手デビューを果たす泉谷楓真騎手だった。
山口県生まれの泉谷騎手は、四位調教師が子どもの頃に在籍していた鹿児島県の乗馬クラブまで、わざわざ山口から通っていたという可愛い“後輩”だ。尊敬する大先輩が引退した翌日に自身のデビュー戦で初騎乗初勝利をマーク。JRA発表の資料には、泉谷騎手の目標とする騎手はずばり「四位洋文騎手」と記されている。
3月に開業した四位厩舎は、現在まで泉谷騎手を3鞍で起用。3着2回の好成績を残すなど、その関係性はしっかりと続いている。
一方で、軌道に乗るまでには3、4年はかかるといわれる厳しい調教師の世界。開業間もない四位厩舎は、普通であれば池添騎手や福永騎手ら、トップジョッキーの確保だけでも困難な状況であることは察しがつく。
さらにエージェント制の浸透により、かつての師匠と弟子の関係性を持つ“師弟物語”が聞かれなくなった感のある現在の競馬界。今でも多くの後輩騎手から慕われる四位調教師こそ、その“絆”を武器に、現在の“師弟物語”の関係性に風穴をあけることができるのではないだろうか。
冒頭で記したモンテディオの次走は、菊花賞トライアルを目指す方向だという。調教師にとってはクラシックロードに向かう馬たちの調整はもちろん、その鞍上の確保も大きな仕事になってくることは言うまでもない。
「1勝クラスを勝ったばかりで強気なことは言えないが……」と、勝って兜の緒を締める四位調教師。果たして競馬界の“師弟物語”に新しい風を吹き込むことができるか注目したい。
(文=鈴木TKO)
<著者プロフィール> 野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界に殴り込み。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか追求する。
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