JRA戸崎圭太「単勝1.6倍」桜花賞(G1)悪夢の敗戦から7年、再び現れた無敗の“怪物候補”と誓うリベンジの時
2015年の桜花賞(G1)。一頭の無敗馬に大きな注目が集まった。
その名はルージュバック。デビューから3戦3勝、しかも全て牡馬相手に鋭い末脚で完勝してきたこともあり、戦前には競馬ファンの間で「怪物」と騒ぎ立てられた。主戦を務めていた戸崎圭太騎手も前年に中央競馬で初めて年間リーディングを獲得し、もはや飛ぶ鳥を落とす勢いがあった。
そんな「最強タッグ」に疑いの余地は少なく、桜花賞では単勝1.6倍の断然人気に支持され、伝説の幕開けを期待するゲートが開かれた。
好スタートを決めると、道中は馬群の中団を追走。最初の3ハロン37秒1というマイルG1では異例の超スローペースのなか、ポジションを少し下げる場面はあったが、最後の直線では誰もが「いつものように弾ける」そう思った。
しかし、その直線では驚きの光景が待っていた。
「まだルージュバックは後方!ルージュバックは後方です!」
実況アナウンサーから心配の声が上がる最中、鞍上のGOサインとともに懸命に追い出されるも、いつもの伸び脚は見られない。逃げて先頭をひた走っていたレッツゴードンキとの差は、縮まるどころか寧ろ広がるばかり。結局ゴールまで何の見せ場もなく、観客の悲鳴とともにルージュバックは馬群に沈んだ。
後にも先にも、戸崎騎手がG1で単勝1倍台の馬に騎乗したのは、この1度きり。初めて経験する重圧を背負い、勝ち馬の鞍上・岩田康誠騎手が作り上げた巧みなスローペースに翻弄され、改めて「競馬に絶対はない」と思い知らされるレースとなってしまった。
「桜花賞では、圧倒的人気を裏切る不甲斐ない騎乗をしてしまって……」
次走のオークス(G1)出走前の共同記者会見で、当時の歯がゆい思いを語った戸崎騎手。そのオークスでは再び1番人気に支持され2着に巻き返すことに成功したが、「怪物」と謳われたルージュバックからすれば、期待に応える活躍とまでは言い難かった。同馬は生涯で重賞を3勝するも、ついにはG1タイトルを掴む事なくターフを去った。
あれから7年が経った今年。戸崎騎手は無敗の“怪物候補”との呼び声もあるプレサージュリフト(牝3、美浦・木村哲也厩舎)と、10日の桜花賞へ挑む。
同馬の新馬戦は多くの競馬ファンの度肝を抜き、まさに「怪物」の片鱗を見た。
スタートでやや出遅れ、最後方からの競馬を強いられたが、4コーナーから直線にかけて大外から進出を開始すると、当時鞍上だった大野拓弥騎手が最後まで強く追うこともなく、ラスト3ハロン33秒3という驚異的な“鬼脚”を繰り出して圧勝。
続く前走のクイーンC(G3)では初めて戸崎騎手が跨り、3カ月半の休み明けに加えてプラス12キロと決して万全ではないにも関わらず、重賞実績馬のスターズオンアースやベルクレスタを競り落とし、一躍桜花賞の主役候補に名乗りをあげている。
今回の相手は、チューリップ賞(G2)を快勝したナミュールや、昨年の阪神JF(G1)の覇者サークルオブライフである事は間違いない。だが、プレサージュリフトもそれらに勝るとも劣らない一級品の決め手を持っている。近年はトライアル組から勝ち馬が出ていないだけに、付け入る隙は十分ありそうだ。
ルージュバック以降、牝馬3冠レースで勝てない日々が続いていた戸崎騎手だが、昨年の秋華賞(G1)をアカイトリノムスメで制し、ようやく第一歩を踏み出した。7年前の悪夢を払拭すべく、今度こそ「怪物」証明のリベンジに燃えているはずだ。
(文=ハイキック熊田)
<著者プロフィール>
ウオッカ全盛期に競馬と出会い、そこからドハマり。10年かけて休日を利用して中央競馬の全ての競馬場を旅打ち達成。馬券は穴馬からの単勝・馬連で勝負。日々データ分析や情報収集を行う「馬券研究」三昧。女性扱いはからっきし下手だが、牝馬限定戦は得意?
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