JRAオークス(G1)武豊「まともだったらひょっとした」のモヤモヤから14年…「普通のレースなら文句なしに降着」とまで言われた池添謙一の大斜行
今週日曜の東京メインは、牝馬クラシック第2弾のオークス(G1)が行われる。
フローラS(G2)から巻き返しを期すのはルージュエヴァイユだ。デビュー3連勝を懸けて臨んだ前走は直線で前が詰まる不利が重なり、脚を余す形で5着に敗れた。今回は代打騎乗に定評がある池添謙一騎手がテン乗りで一発を狙う。
池添騎手はオークスにこれまで12回騎乗。2008年にトールポピーで、16年にはシンハライトで制しているが、どちらも最後の直線で他馬に迷惑をかけ、後味の悪さが残るレースでもあった。
特に有名なのが俗に「トールポピー事件」と呼ばれる08年の方だろう。前年の2歳女王は、桜花賞で1番人気を裏切り8着に敗れると、オークスでは4番人気まで評価を落としていた。
桜花賞の前哨戦・チューリップ賞(G3・当時)も2着に敗れるなど不甲斐ないレースが続き、池添騎手には焦りに近い感情もあったのかもしれない。道中は中団に控えると、直線狭いところを突き最後はエフティマイアにクビ差の勝利を掴んだ。
「普通のレースなら文句なしに降着」とまで言われた池添謙一
ところが最後の直線で見せた池添騎手の騎乗が物議を醸すことになる。
直線を向き、残り400m地点。馬群の真ん中にいたトールポピーと池添騎手は前が壁になるのを嫌ったのか、内にポカリと空いた狭いスペースに突っ込んでいった。次の瞬間、テレビカメラは後方集団を映し出しため、決定的瞬間は捉えられていなかった。再びカメラが切り替わったときにはトールポピーは既に先頭に躍り出ており、外から迫るエフティマイアとの叩き合いがゴール板まで続いた。
実はテレビカメラが後方集団を映し出しているほんの数秒の間、トールポピーは左に大きく斜行しながら走っていたのだ。後にパトロールビデオで判明することになるが、左(ラチ沿い)にもたれる同馬に対し、鞍上は右ムチを連打。これが複数頭の進路取りに影響していた。
ゴール板を過ぎ勝利を確信した池添騎手は右手で大きくガッツポーズを作った。ところが、東京競馬場にともったのは青いランプ。もちろん対象となったのはトールポピーの直線における斜行である。長い審議の末、到達順位の通りで確定したが、池添騎手には2日間の騎乗停止処分が下った。
「2日間とはいえ騎乗停止に相当する悪質な騎乗でした。にもかかわらず、降着にならなかったことに憤慨したファンは少なくありませんでした。当時のJRA審判部長は『4頭に影響を与えたが、個々の馬の被害具合は着順を変更するまでは至らないものだった』という見解。被害を受けた4頭のうちの1頭、マイネレーツェルに騎乗していた武豊騎手も後日、レースに対する感情を綴っています」(競馬誌ライター)
レースの3日後、武騎手は自身の公式サイト上の「モヤモヤをスカッと晴らすダービーに」と題した日記にこう記している。
「先週のオークスは、実は会心の騎乗でした。マイネレーツェルは9番人気という低評価で、それだけに無欲で乗れたということもあるのですが、直線に向くまで余力たっぷりで、進路も目の前の内ラチ沿いにガバッと開けていました。しかも、期待以上のすごい伸び。皆さんご存じのように、勝った馬が外から切れ込んできたために行き場がなくなってしまいましたが、まともだったらひょっとしたかもしれません」(08年5月28日付)
結果は本人も「モヤモヤ」と語る9着だったものの、不利を受けるまではかなりの手応えがあったことが伝わってくるだろう。
当時、さらに強い表現で苦言を呈した人物もいた。競馬評論家の柏木集保氏である。レース直後のテレビ番組内の回顧で、様々な意見があることを踏まえた上で、柏木氏は「普通のレースなら文句なしに降着だと思います」とキッパリと言い切ったのだ。パトロールビデオを見返せば、その意見に同意せざるを得ないのは明らかだった。
当時は今ほどSNSが一般的ではなかったものの、掲示板などではトールポピーと池添騎手に批判が集中。レース後の勝利騎手インタビューで池添騎手も「他の馬に迷惑をかけて申し訳なかったです」と謝罪から入るなど、なんとも後味の悪い結末となった。
「トールポピー事件」として語り継がれているオークスから14年。8年後にはシンハライトで勝利するも、ここでも他馬に迷惑をかけた池添騎手。本人もオークスにはモヤモヤした気持ちを抱いているかもしれない。今年こそルージュエヴァイユでスカッとした勝利を飾りたい。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。
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