JRAフェアリーS(G3)「どうした、おまえ」「普通なら前が詰まる」調教師も驚いたキタウイングの激変! 杉原誠人の名を轟かせた一か八かの賭け
5日間のうち4日間も開催のあった年始の中央競馬。最終日となった9日の中山競馬場で3歳牝馬の重賞フェアリーS(G3)を制したのは、杉原誠人騎手とキタウイング(牝3、美浦・小島茂之厩舎)のコンビだった。
11番人気の人気薄が勝利しただけでなく、2着に7番人気メイクアスナッチ、3着に6番人気スピードオブライトが入った3連単の払戻は51万7430円の高配当。的中したファンにとって、新年早々BIGな“お年玉”となったのではないだろうか。
「後ろから運んで、直線は狭い所しか無く、馬に感謝しかありません。乗るたびに良くなっていますし、気持ちも強いものがあります。久々に騎乗して、一段とパワーアップしたように感じました」
会心の勝利をそう振り返った杉原騎手の重賞タイトルは、昨年7月にビリーバーで制したアイビスサマーダッシュ(G3)に続く2つ目。デビュー12年目で手に入れた初重賞勝ちも、キタウイングと同じくミルファームの生産馬だった。再び巡ってきた元パートナーでチャンスをモノにし、オーナーからの信頼も深まったはずだ。
外枠が圧倒的に不利とされる中山のマイル戦で7枠14番という外を引いたことも、メンバー唯一の重賞勝ち馬でありながら、軽視された理由の一つだろう。
しかし、先行して14着に終わった阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)の敗戦を糧に、今回は後ろからの競馬。この杉原騎手の思い切りの良さが、アタマ差の接戦を繰り広げたメイクアスナッチとの叩き合いで功を奏した。
特筆すべきは、スタートからゴールまで非の打ちようがなかった杉原騎手による完璧過ぎるエスコートだ。
杉原誠人騎手の名を轟かせた一か八かの賭け
フルゲート16頭立てで争われた芝1600m戦。まずは無難にスタートを決めると杉原騎手は、先行する各馬を尻目に最内目掛けてキタウイングを誘導した。インを取り切ったコンビはその後もリズムよく追走。距離のロスを最小限に抑えたコーナーワークで馬群から離されない絶妙な位置をキープし続けた。
道中で余計な動きを一切せず、進出を始めたのも3コーナーを過ぎてから。勝負所で動いたライバルたちが外に進路を求めたのに対し、最短距離を走れる内の利を生かし、4コーナー入り口では9番手までポジションを押し上げることに成功していた。
ここまではスムーズなレース運びに成功したものの、最後に立ちはだかったのは、直線で先頭に立っていたマイレーヌの存在。同馬は既に余力がなくなっていたため、ふらついて内へ寄るシーンも見られた。
かといって馬群が密集する中で抜け出すルートは、内1頭分あるかないか。ここで躊躇していては、それまでのお膳立てが水の泡となってしまう。杉原騎手にとってもイチかバチかの賭けだったと思うが、迷わずに狭いところへ突っ込んだ。
この天国と地獄の分かれ目となったであろう勝負に勝ったキタウイングは、内ラチスレスレのところから抜け出すことに成功する。大外から強襲したメイクアスナッチの猛追を何とか凌ぎ切ったところがゴール。両馬が走った距離の差を考えると、杉原騎手の好騎乗なしに、この勝利は成立しなかっただろう。
「出たなりの競馬で可能な作戦ではなく、おそらくレース前に何度もシミュレーションを繰り返しての好騎乗でしょう。キタウイングの力があることは間違いないですが、他の騎手が騎乗して同じレースが出来たかどうかは分かりません。
うまくいくときは、すべての条件が揃うもので、最初から最後まで綺麗にパズルのピースが埋まった感じです。個人的な感想ではありますが、最近見たレースの中で最も感動した“神騎乗”といえるかもしれません」(競馬記者)
『中日スポーツ』の記事によると、キタウイングを管理する小島調教師も杉原騎手の快勝に「どうした、おまえ」「普通だったら前が詰まる」と驚きを隠せなかった様子。デビューから2戦の手綱を任されながら、重賞の新潟2歳S(G3)と阪神JFでは他の騎手へ乗り替わる悔しさも味わったが、3度目のコンビ結成で100点満点どころか120点の結果を残した。
それまで年間22勝が最多だった遅咲きの苦労人が、わずか4日間で3勝を挙げた上に、約半年で重賞2勝の快進撃は多くのファンの目を引いた。SNSでも杉原騎手の名前がトレンドに上がったほど。この勢いが本物なら、キャリアハイの更新は時間の問題だろう。
今週末の開催も杉原誠人騎手の活躍に要注目だ。
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