安藤勝己、武幸四郎とつないだバトン。函館に愛された名優・エリモハリアーが史上3頭目の同一重賞3連覇【競馬クロニクル 第16回】
芝の質が軽い・重い、直線が長い・短い、右回り・左回り、坂がある・ない……などなど、競馬場によってそれぞれに特徴があり、それゆえ馬たちにも競馬場による得手・不得手があったりする。
そんななか、函館記念(G3)で同一重賞3連覇というJRA史上3頭目の偉業を成し遂げた“函館の申し子”がいる。息の長い活躍を続けた“いぶし銀”エリモハリアーがその馬である。
エリモハリアーは、父が英・愛ダービーやキングジョージ6世&クイーンエリザベスSを制したジェネラス、母が未勝利のまま引退したエリモハスラー(父ブレイヴェストローマン)という血統のもと2000年3月、北海道のえりも農場で牡馬として生まれたが、おそらく気性の面に問題があったのだろう。デビュー前に去勢され“せん馬”となっている。
栗東トレーニングセンターの田所秀孝厩舎に預託されたエリモハリアーは、端的に言うなら「落ちこぼれ」だった。
2歳の11月にデビューするが、初勝利を挙げたのは翌年の8月のことで、キャリアにして8戦を要している。
そんななか、大きな転機を迎えたのは2005年の夏のことだった。準オープンの身ながらオープンの巴賞(函館・芝1800m)に格上挑戦したエリモハリアーは不良馬場も味方に付け、単勝7番人気の低評価を覆して快勝。一気にオープン入りを果たすと、続く函館記念(芝2000m)でも3番手から力強く抜け出し、重賞初制覇を成し遂げている。デビューから実に33戦目のことだった。以後、朝日チャンレンジC(G3)2着など、重賞でも善戦し、5歳シーズンを終えた。
翌2006年の始動戦となった金鯱賞(G2)では武豊を鞍上に迎えて3着に好走し、予定通りに函館へと向かう。
ローテーションは前年と同じだが、鞍上には円熟の極みにあった安藤勝己を招いた。2.2倍の単勝1番人気となった巴賞は先行馬を捉え切れず2着に敗れたが、ここが“叩き台”なのはファンも承知のこと。続く函館記念でも3.3倍の1番人気に推されたエリモハリアーは、2番人気のエアシェイディを堂々と差し切って優勝。本レース2連覇を果たした。
その後、札幌記念(G2)で5着としたものの、屈腱炎を発症していることが判明。エクセルマネジメント(旧えりも農場)の厚真トレーニングセンターで休養に入る。症状は軽いものとはいえず、治療には約4カ月を要した。また運動を始めてからも、牧場スタッフにとっては、患部の状態に細心の注意を払いながらの難しい仕事になったという。
そして約10カ月ぶりに、エリモハリアーは競走の舞台へと帰ってきた。愛しい函館のターフに、である。
しかし、決して軽いとは言えない屈腱炎を治療し、実戦から長いあいだ離れていた彼にとって、復帰戦となった巴賞の結果は予想以上に厳しいものだった。新たなパートナーの武幸四郎を背に道中は中団を追走したが、58㎏の斤量もこたえたのか、直線ではずるずると後退して11頭立ての最下位に敗れたのである。
“函館の申し子”も、さすがに復活は無理なのでは……。ハリアーのファンが多い函館の観衆もそう捉えるしかない惨敗だった。
3連覇がかかる函館記念ではあったが、追い切りの動きが精彩を欠いたこともあって、エリモハリアーは単勝オッズ25.1倍の7番人気にとどまった。
ややスローな流れで進むなか、鞍上は巧みに中団の内を通って経済コースを進む。函館コースの仕掛けどころである第3コーナー手前からペースが上がっても、置かれることなくインで流れに付いていったエリモハリアーは、直線に入ったところで馬群の外へ持ち出される。
するとそこから一気にギアをアップし、抜群の切れ味で粘るロフティーエイムを豪快に差し切ってゴール。前走最下位から奇跡の巻き返しを果たし、同一重賞3連覇という偉業を達成したのだった。
ちなみに同一重賞3連覇は当時、セカイオー(1956-1958年の鳴尾記念)、タップダンスシチー(2003-2005年の金鯱賞)に次ぐJRA史上3頭目の偉業だった(アラブ競走は除く)。
そしてこの3連覇は、1度目が北村浩平、2度目が安藤勝己、3度目が武幸四郎と、すべて異なる騎手での達成という珍しいケースでもある。
そのあとエリモハリアーは10歳まで走り続け、2010年の函館記念(13着)を最後に現役を引退。函館競馬場で2017年まで誘導馬を務めた。
2014年の函館競馬ではJRA60周年記念競走として、ファン投票で過去の函館記念勝ち馬から最多票数を得た馬の名前をレース名に取り入れるという企画が行われ、エリモハリアーは第1位となり、『函館の名優 エリモハリアーC』のレース名で施行された。
函館競馬場を愛し、函館のファンに愛された“いぶし銀”の名優・エリモハリアー。厩舎スタッフ、牧場スタッフによる熱のこもったサポートを得て、10歳まで走り切ったからこそ醸し出す味わい深さが彼には確かにあった。(敬称略)
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