【小島武夫さん追悼再掲載】勝負と女に賭けた人生 日本初の麻雀プロ・小島武夫の「遺言」
小島武夫の勝負論
――これまで麻雀を打ってきて、一番印象深い対局はどんな対局でしたか?
「どれも印象深いですね。楽しくやるということもなく、ただ、一生懸命自分が持っている力を叩き出します。これで勝つとか負けるとかそう言うことは一切考えず、自分がいいと思う麻雀をするんです。麻雀っていうのは、これまで研究し、培ってきたものをどれだけ表現できるかなんです」
――つまり、小島プロにとって麻雀は自己表現の手段ということでしょうか?
「そうです。勝ち負けではなく、自分がどういう麻雀を『表現』するかが麻雀だよね。それをファンがどう評価してくれるか。戦うっていうのはそういうことじゃないかな」
――本にも「セコい手で上がってはいけない」と記されていますね。
「プロ同士の戦いなら『お前には、これは打てないだろう』という自負心を持った戦いをしなきゃならないと思います。もちろん、それで負けることもある。それはそれで自分の修行が足りなかったと思うだけです。職人と同じで、これで終わりというゴールはありません。一生が戦いだし、一生が研究。そう思わないと麻雀プロはできません」
――本には阿佐田哲也先生との思い出が随所に散りばめられています。やはり、小島プロにとって大きな存在だったのでしょうか?
「随分お世話になったよね。麻雀も打ったし、人間的にも勉強させてもらった。阿佐田先生は僕にとってはとても怖い人なんです」
――「怖い」とは?
「麻雀をやっていても、阿佐田先生が追いかけてくる時は『いつかまくられるんじゃないか』という恐怖感を与えられるんです。人間的な格の違いもあるよね。別にごつごつしたものがあるわけじゃなくて非常に柔和なんだけど、すごく説得力がある」
――阿佐田先生はどういう打ち方をされていたんでしょうか?
「懐の深い打ち方だよね。捨て牌と手牌のバランスを見ながら、一打一打、牌を模打することで表現をしているんです。相手も分かっているはずなのに、吸い込まれるように振り込んでしまうというようなね。僕は麻雀っていうのは美学だと思うんです。いくら強くても美学がないとその人の麻雀とは認められません。強い、弱いなんていうのはその場限りの結果に過ぎません」
――小島プロ自身も、若い頃と今で打ち方は変わってきましたか?
「若い頃は相手に喧嘩を仕掛ける剃刀みたいな打ち方をしていましたね。けど、歳を取ると丸みを帯びてくるんです。角が取れた『上手い』打ち方になるよね。振り込んだ相手も『これなら仕方ない』と思うような手だね」