【日本ダービー特別再寄稿】託された思いと飽くなき挑戦。ホースマンの夢を繋いだ日本ダービー馬「絆(キズナ)」の物語<前編>
※この記事は、今月3日に掲載した【ケンタッキーダービー出走特別連載】に加筆、修正を加えたものです。
「めちゃめちゃ嬉しかったです。ダービーの味っていいものだな、と思いました」
スポーツ雑誌のトップランナー「Sports Graphic Number」(文藝春秋)の6月2日号の巻頭インタビューで、初勝利となったスペシャルウィークでの日本ダービー(G1)制覇を振り返って、武豊はそう語っている。
3歳サラブレッドの頂点を決める「日本ダービーの勝利」は、やはり騎手にとって極めて特別な勲章であり、それは数多のタイトルだけでなく、騎手が成し遂げられることのおよそすべてを手にしてきた不出世の天才・武豊でも例外ではないということだ。
自身のデビューから10度目の参戦でダービー初勝利を挙げた1998年。あれから、今年で18年の月日が流れたが、稀代の名手はまるでダービーの勝ち方を覚えたかのように、さらに4勝を上積みしている。通算5勝はもちろん、前人未到の記録だ。
しかし、そんな武も2005年にディープインパクトで日本ダービー4勝目を挙げて以来、8年もの間、ダービーの勝利から遠ざかっている。
その間、騎手として「初めての挫折」といえる厳しい時間、そして環境に身を置いていた武豊。2010年の落馬負傷などの影響で思うように騎乗できない時期が続き、多くの人や馬が天才騎手の元から離れた。
ただその一方で、自らの信念を持って、武の実力を信頼し「復活」へと支え続けた人々もいる。
ノースヒルズグループの代表・前田幸治もその一人であり、低迷を続けた武豊が復活の狼煙を上げるきっかけとなった馬こそ、前田が所有していた2013年のダービー馬『キズナ』であった。
武とキズナの出会いは意外な形で始まり「非業な運命」によって結ばれた
遡ること2011年の4月。東日本大震災から僅か1か月後、前田は所有馬のトランセンドとともにドバイワールドCを迎えていた。東北を中心に日本全土を襲った未曽有の災害の直後、深刻なライフラインの復旧に追われる中、「競馬」はその存在意義が問われていた。
あまりにも大きな問題に対し、すでに1000万円の義援金を収めていた前田ができることは、トランセンドの世界制覇をもって日本の競馬ファンに勇気を届けること……。しかし、渾身の仕上げで臨んだトランセンドは、最後まで見せ場を作るも2着。勝利を飾った同じ日本馬のヴィクトワールピサに、主役の座を譲る形となった。
世界の頂点を決めるドバイワールドCで日本馬がワン・ツー。それも震災から僅か1月余りでの偉業だからこそ、日本の快挙に世界中の人々から温かい拍手が届いた。そして脇役に甘んじた前田は世界中の人々から励ましの言葉をもらう中、人の繋がりの強さに改めて感動して、こう心に誓っていた。
次にもし、世界を狙えるような馬に出会ったら『キズナ(絆)』と名付けよう、と――。
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