JRAあるときはライバル、またあるときは頼れる父…ディープインパクトに初黒星をつけただけじゃない? 意外と知られていないハーツクライと武豊の不思議な関係【追悼記事】
また一頭、時代を彩った名馬が天国へと旅立った。9日、JRAの発表によると、北海道安平町の社台スタリオンステーションで繋養されていたハーツクライ(牡22)が亡くなったことが分かった。
本馬は2005年の有馬記念(G1)で無敗の三冠馬ディープインパクトを破り、翌06年にはドバイシーマクラシック(G1)を制した名馬だ。既に種牡馬としては2020年に引退していたものの、2月26日の中山記念(G2)をヒシイグアス、先週末の大阪城S(L)をスカーフェイスが制したように、ハーツクライ産駒の活躍が目立ったばかり。このタイミングでの訃報は非常に残念な限りである。
一時代を築いた偉大な種牡馬だけあって、ハーツクライの代表産駒は歴史的名馬も数多い。19年に春秋グランプリ制覇を成し遂げたリスグラシューをはじめ、14年に圧勝したドバイデューティーフリー(G1・現ドバイターフ)のパフォーマンスで、日本馬初となる“世界一”の称号を手にしたジャスタウェイ、武豊騎手とのコンビで今年の京都記念(G2)を楽勝したドウデュースもまたハーツクライの後継種牡馬として期待される一頭だ。
ハーツクライと聞いて競馬ファンの多くが思い浮かべるのは、おそらくディープインパクトに初黒星を付けた馬というイメージだろう。
大金星の有馬記念で手綱を取ったC.ルメール騎手は、今でこそ日本を代表する騎手の一人だが、当時は短期免許で来日していた外国人騎手の一人に過ぎず、腕は確かだが重賞では勝ち切れない競馬が続いていた。ハーツクライとのコンビでディープインパクトを破った有馬記念が悲願の重賞初勝利だったこともあり、同馬の主戦騎手として印象が強い。
ただ、今回はあえて相手のディープインパクトに騎乗して敗れた武豊騎手とハーツクライの不思議な関係について触れてみたいと思う。
ハーツクライと武豊騎手の不思議な関係
トニービン産駒の母アイリッシュダンスにも1995年の天皇賞・秋(G1)で騎乗したことのある武豊騎手だが、同馬が現役を引退し繁殖牝馬となって5番目に出した仔が、2001年に生まれたハーツクライだった。
母との縁もあってか、武豊騎手がデビュー戦の手綱を任されたことは、意外と知られていないかもしれない。
好位から抜け出す危なげない騎乗で見事デビュー勝ちを決めたコンビだが、2戦目のきさらぎ賞(G3)で早々に解散する。このレースでレジェンドが騎乗したのは、サンデーサイレンス産駒のブラックタイド。ディープインパクトの全兄であり、キタサンブラックの父として知られる馬でもあった。
袂を分かった両者の対決は、ブラックタイドが勝ち馬の強襲に屈してクビ差の2着。ハーツクライは、それからさらに3馬身半差の3着に敗れている。その後の春二冠で縁がなかったものの、再びコンビを結成したのは同年秋の神戸新聞杯(G2)。このレースでキングカメハメハの3着に入り、継続騎乗となった菊花賞(G1)で1番人気の支持を集めたが、後方待機から末脚の伸びを欠いて7着と敗れた。
その後、3番人気で10着に大敗したジャパンC(G1)を最後に武豊騎手が再び手綱を取ることはなかった。それもそのはず、一つ下の世代にディープインパクトがいたのだから……。別れた相手に無敗の快進撃をストップされたことも因果なものといえる。
その一方、かつての名コンビだったディープインパクトが現役を引退して種牡馬入りして以降、多くの活躍馬を輩出したにもかかわらず、G1を複数勝つような大物に武豊騎手がそれほど騎乗していないことは皮肉な話である。キタサンブラックのような大物との出会いがあったとはいえ、こちらは兄のブラックタイド産駒。父に続く無敗の三冠を達成したコントレイルに騎乗したのも、自身が可愛がっていた後輩の福永祐一騎手(現調教師)だった。
自身5度目の日本ダービー(G1)優勝をもたらしてくれたディープインパクト産駒のキズナの登場もあったが、こちらはデビュー2戦を任された佐藤哲三騎手(現競馬評論家)がレース中の事故で負傷したための代打騎乗がきっかけ。最初から武豊騎手が主戦という訳でもなかった。
これに対し、現役時代にディープインパクトのライバルとして立ちはだかったハーツクライ産駒からは、晩年に出現した大物候補ドウデュースとの出会いがあった。
奇しくも前回キズナで優勝して以来となる6度目のダービー制覇を遂げたパートナーとは、デビューからコンビを継続中。レジェンドがこれまでなぜか勝てなかった朝日杯フューチュリティS(G1)の初勝利を手にした相手もドウデュースだ。凱旋門賞(仏G1)を目指した昨秋のフランス遠征こそ不本意な結果に終わったが、国内復帰初戦の京都記念を圧勝し、これからさらなる飛躍を期待される存在となっている。
あるときはライバル、またあるときは頼れる父だったハーツクライと武豊騎手の不思議な関係といえるのではないか。
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