
「ハナ+アタマ+ハナ+アタマ」エアグルーヴ、ドゥラメンテ、そしてリバティアイランド。28頭立て“命がけ”のオークスをダイナカールが制した意味【競馬クロニクル 第9回】
2010年にアパパネとサンテミリオンの1着同着もあったオークス(G1、東京・芝2400m)には、いまも伝説的な激闘として語られ続けるレースがある。
グレード制が導入される1年前の1983年、ダイナカールが優勝したオークスである。
フルゲートが28頭という、いまでは信じ難い多頭数で行われていた当時。道中で不利に見舞われるのは当たり前という世界で、各馬、各騎手は文字どおり“命がけ”でレースに臨んでいた。
単勝1番人気はトライアルのサンケイスポーツ賞4歳牝馬特別を勝ったダスゲニー単枠指定となり、続いて桜花賞で3着に食い込んだダイナカールが2番人気に推された。
レースは各馬が争っていいポジションを奪い合い激しい鍔迫り合いが繰り広げられるなか、10番人気のメジロハイネが直線で先頭に立つが、その直後に付けていたダイナカールがそれを射程に捉える。さらに外から7番人気のジョーキジルクム、20番人気のタイアオバ、11番人気のレインボーピットが脚を伸ばした。
そして、逃げ粘るメジロハイネも“二の脚”を使って盛り返したため、5頭が横に広がって、ほぼ同時にゴール。スタンドはファンの熱狂した歓声や拍手に包まれた。
長い長い写真判定の末、ダイナカールがタイアオバをハナ差抑えて優勝。3着がメジロハイネ、4着がジョーキジルクム、5着がレインボーピットとなり、この5頭はすべて同タイムでのゴールで、着差は「ハナ+アタマ+ハナ+アタマ」という僅差だった。
ダイナカールは、日本の競走馬生産に偉大な足跡を残したノーザンテーストを父に持ち、母の父にもガーサントという、両頭とも社台ファームが輸入した種牡馬の血を宿しており、こんにちの社台グループの繁栄の基礎を作った1頭となった。そしてまた、オーナーとしての社台レースホースとしては初のクラシックホースとなったのだった。
ここで類稀なる勝負強さをもってクラシックを制した馬がダイナカールだったことが、のちの日本の競馬シーンにとって、とても重要な意味を持つことになる。
ダイナカールは1985年に現役を引退して繁殖入りし、1999年に急死するまで、ぜんぶで9頭のこどもを産むが、そのなかの4番仔がみなさんご存じの名牝、エアグルーヴ(父トニービン)である。
エアグルーヴは文字どおりの孝行娘だった。3歳の春にはオークスを快勝して、史上2組目、実に42年ぶりとなる母娘制覇を達成してファンを喜ばせた。
そして古馬となってからは、「この馬は牝馬の枠にとどまるような馬ではない」という伊藤雄二調教師の認識から、積極的に牡牝混合戦にぶつけていく。夏の札幌記念で皐月賞馬ジェニュインらを破って快勝。そして陣営の予定どおり、古馬G1最高峰である天皇賞・秋へと駒を進めた。
ここで、前年に3歳で本レースを制したバブルガムフェローに続く2番人気に推されたエアグルーヴは、ジェニュインを置き去りにしてバブルガムフェローとの息詰まるような叩き合いに持ち込むと、最後にグイとひと伸び。ライバルをクビ差抑えて優勝を飾ったのだった(ちなみにこのレースの6着はサイレンススズカだった)。
これは、天皇賞・秋が2000mに短縮された1984年以降で初の牝馬による優勝という偉業であった。
続くジャパンCが2着、有馬記念が3着と好走を続けたことから、1997年度JRA賞で年度代表馬に選出される。牝馬の選出は1971年度のトウメイ以来、26年ぶりとなる栄誉だった。
翌1998年も現役を続けたエアグルーヴは、大阪杯や札幌記念に優勝し、ジャパンCは前年に続いて2着となるなど、ハイレベルな戦いを続けた。そして暮れの有馬記念(5着)を最後に引退。生まれ故郷である北海道・早来町のノーザンファームで繁殖入りした。
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