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武豊3年目に魅せたユタカマジック!「大外じゃなければ」も大本命に降りかかったアクシデントを跳ね返した“伝説”の騎乗【競馬クロニクル 第15回】

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レジェンドジョッキー
武豊の“神騎乗”Vol.1 1989年 桜花賞(シャダイカグラ)

 今春もジャックドールとのコンビで大阪杯(G1)を制するなど、54歳にしていまだ競馬界の真ん中で活躍を続ける“生ける伝説”武豊

 これまで数々の名騎乗でビッグレースを制してきたレジェンドジョッキーの長いキャリアのなかから厳選し、競馬史に残る“神騎乗”を紹介していきたい。

 デビューからわずか2年目の1988年、スーパークリークで菊花賞を制して早々にG1ジョッキーの仲間入りを果たしていた武豊騎手が、関係者はもちろん、目の肥えたオールドファンをも唸らせたのが翌89年の桜花賞(G1)である。

 3戦目からシャダイカグラの手綱を託された武騎手は、りんどう賞(400万下、以下当時)を楽勝すると、京都3歳S(OP)では逃げの手に出て、2着となった牡馬のラッキーゲランを4馬身も千切って圧勝。一気に評価を高め、続くラジオたんぱ杯3歳牝馬S(G3)こそ逃げ馬にアタマ差届かず2着に敗れるものの、翌春のクラシックにおける“主役”との声は揺るがなかった。

 89年の始動戦であるエルフィンS(OP)は、2番手からの抜け出しで後のオークス馬2着ライトカラーに5馬身差を付けて圧勝。続くペガサスS(G3)では自身初の単枠指定(※)となり、「重」となったタフな馬場状態をものともせず、牡馬のナルシスノワールを差し切って1馬身半差で快勝し、いよいよ“本番”を迎えることになる。

※単枠指定:9頭立て以上のレースで、1頭あるいは数頭に、特に人気が集中しそうな時、その馬を単枠(1枠1頭)に指定する制度。これは、同枠馬が取り消した場合におこる問題の発生を極力防止するための一措置として競馬法のもとで関連規定を改正して実施されたが現在は廃止されている。(JRAの公式HPより)

 桜花賞でも圧倒的な人気を集めることが予想されたため、事前に単枠指定の対象になることが決まったシャダイカグラ。追い切りで感触を確かめた武騎手は勝利への自信を口にしていたが、その言葉にひとつの条件を付けた。

 それは「枠が大外じゃなければ」というポイントだった。

 改修前の阪神競馬場で、1600m戦のスタート位置は第1コーナーの外側に設けられたポケットにあったため最初に迎える第2コーナーまでの距離がかなり短かかった。それゆえ内枠が圧倒的に有利とされており、騎手のなかには「(阪神のマイルは)最内と大外では時計でコンマ5(0秒5)ぐらいは違う(損する)」という声が聞こえるほどだった。

 ところが、枠順抽選でシャダイカグラが引き当てた枠は「8」。単枠指定となっているため、自動的に大外の18番枠に入ることが決まってしまった。先行・好位からの競馬で実績を積み上げてきた“主役”にとって最悪の枠順である。

 それでもシャダイカグラと武騎手に対するファンの信頼は揺るがず、2番人気のアイドルマリー(7.9倍)を大きく引き離し、単勝オッズ2.2倍の圧倒的1番人気に推されてレースを迎えた。

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武豊騎手 撮影:Ruriko.I

 しかし、不運は重なるもの。スタートの瞬間がターフビジョンに映し出された瞬間、スタンドから悲鳴が上がった。シャダイカグラが大きく出遅れたのだ。しかも、あまり前進気勢が見られず、鞍上に促されながらようやく後方馬群に取り付く有様で、素人目にはとても勝利を狙えるとは思えなかった。

 それでも手綱をとる武騎手はシャダイカグラを信じていた。徐々にスピードに乗ってきた彼女を馬群に突っ込ませると、出来る限りコースロスを避けるように内寄りに進路をとって位置を押し上げると、第4コーナーを5~6番手で通過して直線へ向いた。

 先行したタニノターゲットが粘ろうとするが、そこへ絶好の手応えで伸びた伏兵のホクトビーナスが一気に先頭を奪い、ひたすらゴールを目指す。シャダイカグラも2番手まで上がってきたが、直線の半ばではホクトビーナスとはまだ数馬身の差があった。

 しかし、鞍上が手綱を通して叱咤すると、苦しみながらも一完歩ごとに差を詰める。ホクトビーナスの粘りか、シャダイカグラの差し脚か。2頭の息詰まる追い比べとなったが、ゴール寸前、まるで計ったかのようにシャダイカグラがアタマ差で先着。奇跡的な逆転勝利を収めたのだった。

 デビュー直後から「天才」と騒がれ、競馬の枠を超えた注目を浴びてきた弱冠二十歳の騎手がまとっていたベールをさらに脱ぎ棄て、文字どおり“天賦の才”を満天下に示したこの一戦。若さに似合わぬ冷静さと、あまりに鮮やかな勝ちっぷりを見て「ユタカは大外の距離損を補うために、わざと出遅れて内を通ったのではないか」と穿った見方をする者まで現れた。

 のちに武騎手はスタートについて、「あれは本当の出遅れ」だと述懐しているが、一方でシャダイカグラのテンションが上がっていたことから、出遅れは想定しており、追い込みの競馬になる可能性も考えていたとも口にしている。

 レジェンドの真の伝説はここから始まった。
(文中敬称略)

1989年 桜花賞(G1)|シャダイカグラ|JRA公式

三好達彦

三好達彦

1962年生まれ。ライター&編集者。旅行誌、婦人誌の編集部を経たのち、競馬好きが高じてJRA発行の競馬総合月刊誌『優駿』の編集スタッフに加わり、約20年間携わった。偏愛した馬はオグリキャップ、ホクトヘリオス、テイエムオペラオー。サッカー観戦も趣味で、FC東京のファンでもある。

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