
イクイノックスに武豊×ドウデュース以上の強敵!? 2017年キタサンブラック以来の「満票」獲得に意外な刺客

「論ずるに値しない」という言葉がある。
文字通り、議論する価値もないほどわかりきったものを指して使われるが、読売ジャイアンツの原辰徳前監督が怠慢プレーをした選手に対して用いるなど、ここ数年で特に目にする機会が増えた言葉だ。
この2023年の競馬界にも「論ずるに値しない」ものが存在する。今年のJRA賞・最優秀4歳以上牡馬の行方だ。
まだ、ジャパンC(G1)や有馬記念(G1)といったJRA賞に大きく影響するビッグレースが残っているものの、今年2023年の最優秀4歳以上牡馬はイクイノックスで間違いないはずだ。
始動戦となったドバイシーマクラシック(G1)で記録したレーティング129は、ロンジンワールドベストレースホースランキングで日本だけでなく世界No.1と認定され、今なおこれを上回る馬は出てきていない。
続く宝塚記念(G1)の完勝も然ることながら、先日の天皇賞・秋(G1)で叩き出した1:55.2は、11年間破られていなかったトーセンジョーダンの記録を0.9秒も更新するスーパーレコード。同じ4歳牡馬のドウデュースやジャスティンパレスといった現役トップクラスをまったく寄せ付けず、改めて1強を強調する結果となった。
今やイクイノックスは現役最強どころか、歴代最強の呼び声も高い存在。仮に、もし次走に予定されているジャパンCで敗れたとしても、今年の最優秀4歳以上牡馬は「すでに“内定”している」といっても異論はないだろう。
だが、イクイノックスが「満票」で最優秀4歳以上牡馬に輝くのかというと、少し話は変わってくる。
ちなみに最優秀4歳以上牡馬など競走馬のJRA賞は、基本的に定められた記者による投票で行われる。つまり満票を獲得するということは、300名弱に及ぶ記者たち全員から投票を受ける必要があるわけだ。
その一方で、JRA賞の投票には特に規則が定められておらず、各記者が思い思いの投票をすることもあって、時には「本当にこの馬が?」と疑いたくなるような投票もしばしば……。毎年の発表直後には現状のJRA賞の在り方も含め、全国の競馬ファンの議論の的になるのが風物詩となっている。
そんな背景もあって、満票を獲得した馬は意外に少ない。特に2歳や3歳と違い、すべての4歳以上の牡馬が対象になる最優秀4歳以上牡馬における満票獲得のハードルは決して低くない。
実際に、現行のルールになった2000年以降で、見事満票で最優秀4歳以上牡馬に輝いたのは2000年テイエムオペラオー、2004年ゼンノロブロイ、2017年キタサンブラックの3頭のみ。オルフェーヴルやディープインパクト、コントレイルといった3歳時に三冠を達成した馬でさえ苦戦を強いられた歴史がある。
言ってしまえば、少しでも可能性のある馬が現れれば、票を持っていかれてしまうのだ。
条件を満たすには、まずライバルを完膚なきまでに黙らせる必要がある。史上唯一のグランドスラム(年間古馬王道G1完全制覇)を成し遂げた2000年テイエムオペラオー、秋古馬三冠を達成した2004年ゼンノロブロイなどは、その典型だろう。
だが、その一方で仮にライバルたちの挑戦を跳ね返し、誰もが認める現役No.1を証明しても「別路線からの刺客」が大きな壁になるケースもある。
2013年のオルフェーヴルは4戦3勝で唯一の2着が凱旋門賞(仏G1)。ラストランになった有馬記念で2着ウインバリアシオンを8馬身もちぎって圧勝するなど、ほぼ完璧な1年を過ごした。
しかし、記者投票で大きく幅を利かせたのが、同世代のスピードスター・ロードカナロアだ。
この年、高松宮記念(G1)、安田記念(G1)、スプリンターズS(G1)で圧倒的な強さを示し、12月の香港スプリント(G1)でアジアNo.1スプリンターに輝いた「龍王」ロードカナロアは、最優秀4歳以上牡馬の投票でも104票を獲得。
結局、最優秀4歳以上牡馬こそオルフェーヴルに譲ったものの最優秀短距離馬に輝き、この年の年度代表馬にも選出されている。
上記を踏まえると、イクイノックスの満票獲得を阻止する可能性を持ったライバルは、まず次走のジャパンCに出走を予定しているドウデュースら、最優秀4歳以上牡馬を獲得する資格を持った馬が考えられる。特にドウデュースは、主戦の武豊騎手の復帰が間に合えば今度こそ強敵となるはずだ。
「満票」獲得に意外な刺客
だが、それら以上に“強敵”となりそうなのが、日本時間5日のBCクラシック(米G1)に出走を予定しているウシュバテソーロだ。
ウシュバテソーロといえば、今春に日本馬として史上2頭目となるドバイワールドC(首G1)を制覇。2月には川崎記念(G1)も勝利しており、現状でも最優秀ダートホースの最有力候補だ。
その上に、もし米国競馬の最高峰となるBCクラシックを勝利すれば、史上初の快挙というだけでなく、ダートにおける世界最強馬ということになる。つまり、芝の世界最強馬イクイノックスと並び立つ存在になるわけだ。
日本競馬の主流が芝にあることからも、過去にダートで活躍した馬が最優秀4歳以上牡馬を獲得した例はない。しかし、コントレイルが引退レースのジャパンCで劇的な復活勝利を挙げた2021年も、本馬が最優秀4歳以上牡馬を獲得した一方で、帝王賞(G1)とチャンピオンズC(G1)を勝ったテーオーケインズが10票を獲得するなど、年々その地位を向上させている。
絶対王者イクイノックスが今年の最優秀4歳以上牡馬を獲得することは、冒頭で述べた通り、もはや「論ずるに値しない」といえるだろう。だが、2017年キタサンブラック以来の満票獲得となるかは、もう少し見守る必要がありそうだ。
PICK UP
Ranking
11:30更新武豊やC.ルメールでさえ「NGリスト」の個性派オーナーが存在感…お気に入りはG1前に「無念の降板」告げた若手騎手、過去に複数の関係者と行き違いも?
横山典弘騎手が若手騎手に「あの乗り方はやめろ」岩田康誠騎手らが実践する「お尻トントン」は、競走馬の負担になるだけ?
「正直なところ辟易としています」武豊が巻き込まれた29年前のアイドルホース狂騒曲…レース前に明かしていた「コンビ結成」の裏話
- 「シャフリヤールの激走はわかっていた」本物だけが知る有馬記念裏事情。そして“金杯”で再現される波乱の結末とは?
- 浜中俊「哀愁」の1年。かつての相棒ソウルラッシュ、ナムラクレアが乗り替わりで結果…2025年「希望の光」は世代屈指の快速馬か
- JRAイチの「豪快王」小島太列伝。愛人、酒席トラブルあっても名騎手、名調教師の生き様に曇りなし
- 皐月賞(G1)クロワデュノール「1強」に待った!? 「強さが証明された」川田将雅も絶賛した3戦3勝馬
- JRA「馬が走ってくれません」スタート直後の“レース拒否”に大反響!? 三浦皇成も打つ手なし……未勝利馬がまさかの「自己主張」で1か月の出走停止処分
- 横山典弘「27年ぶり」ドバイ決戦へ。「自分の命と引き換えに僕を守ってくれた」盟友ホクトベガの死で止まった時間…今度こそ無事完走を
- 「世代最強候補」クロワデュノールは本物なのか?ホープフルSで下馬評を覆す最強刺客