ライバル・ジェンティルドンナが高みに昇るほど、独り歩きしたヴィルシーナの「評価」と「期待」。そして、失うもののない「等身大」の強みで掴み獲った栄冠
そうして迎えた、第8回のヴィクトリアマイル(G1)。ジェンティルドンナが不在の中、ヴィルシーナはまだ1番人気だったが、エリザベス女王杯で1.9倍だった単勝は3.1倍まで下降していた。2番人気のハナズゴールが差のない4.4倍。
皆がもう「ヴィルシーナは、ジェンティルドンナのような絶対的な存在でない」と考えていることが反映された、まさに混戦模様のオッズだった。
そんな中で、いわば”失うものがなくなった”ヴィルシーナは、抜群のスタートから果敢に前に行った。
先頭こそハナを主張したアイムユアーズに譲ったが、道中は2番手をキープ。これまで好位から安定した末脚を発揮していたヴィルシーナは、いつも以上に積極果敢に前に出た。
前半の3ハロン「34.6秒」は、これまでヴィルシーナが経験したどのレースよりも速かったが、内田騎手は「この積極策こそが、ヴィルシーナの力を最も引き出せる」と信じて、腹を括っていたのかもしれない。
最後の直線に入り、スパートを試みたヴィルシーナだったが、その手応えは決して十分なものではなかった。追い出しを我慢していたわけではなく、内田騎手は激しく手綱をしごき、ムチまで入れているが、前にいたアイムユアーズさえ交わせない。
さらに、直後にいたマイネイサベルにあっさり前に出られた瞬間は、大敗まで意識せざるを得ないものだった。
内田騎手の激しい激にヴィルシーナの眠っていた闘争心が目を覚ましたのは、ラスト200mを切ってから。昨年のヴィクトリアマイルの覇者ホエールキャプチャが、すぐ背後に迫ってきた時だった。
内田騎手の右ムチの連打に応えるように、本来の走りを取り戻したヴィルシーナは一瞬にして先頭にいたマイネイサベルに並び掛け、ホエールキャプチャの猛追に対しても秋華賞でジェンティルドンナに抗った時のような、驚異的な粘りを見せる。
3頭の叩き合いをハナ差凌ぎ切ったところが、ヴィルシーナが惜敗記録に終止符を打つ栄光のゴールだった。
「あの時は、まさに皆が『ヴィルシーナに勝利を』という思いで一つになっていたような気がします。そして、ヴィルシーナもそうした皆の気持ちに応えてくれたんだと思いますね」
内田騎手は2013年のヴィクトリアマイルを振り返り、そうコメントしている。歴史的な最強牝馬ジェンティルドンナの評価が高みに昇れば上るほど、勝手に独り歩きしていたヴィルシーナ自身に対する評価と期待。大阪杯で粉々に砕け散った”幻想”は、彼女の評価を貶めた代わりに、失うもののない「等身大」の強みをもたらした。
『生まれた時代が悪かった』
そう言ってしまうのは簡単だ。だが、そこから始まる”身の丈の合った世界”で、どう自分を見つめ直し、どう磨いていくのか。その大切さをヴィルシーナと内田騎手は知っていたのかもしれない。
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