武豊が「勝負の鬼」と化した天皇賞・秋。華麗さを捨て後輩騎手に”タックル”してでも勝ちに行った執念と覚悟
逆に述べれば、この「勝ちへの執念」こそが武豊が稀代のトップ騎手たる所以だ。
そこからは、まさに死闘を思わせるレースぶり。先頭を走るキタサンブラックの武豊騎手も、追いかけるサトノクラウンのM.デムーロ騎手も、お互いの技術のすべてを尽くして馬を追い続けたはずだ。
最後の最後、キタサンブラックが先頭でゴールした際、武豊騎手の珍しく派手なガッツポーズが、人馬にとっての今回のレースの価値を物語っていた。レース後の「すごく大きな1勝」という第一声は、紛れもない本音だろう。
レース後にひと段落し、改めて行われた勝利騎手インタビューで、咄嗟にインを突いたことに関し「負けたら馬場のせいにしようと思っていました」と笑いを誘った武豊騎手。まるでレースの熱気に吹き飛ばされたように雨は上がり、そこにはいつもの陽気な紳士が戻っていた。
(文=浅井宗次郎)