JRA蛯名正義「悔し過ぎて何も言いたくない」日本ダービーで取材拒否……「このレースだけは結果が全て」すべてが完璧だった男と、自らを「騎手失格」と称した男を分けた明暗
「今年は俺だったのになぁ……」
一昨年、ダノンキングリーで2年連続の2着に敗れた戸崎圭太騎手は、思わずそう本音を溢したという。惜しくもクビ差で12番人気のロジャーバローズに逃げ切りを許した悔しさも然ることながら、騎手にとって日本ダービー(G1)というタイトル……つまりはダービージョッキーの称号は、それだけ大きなものなのだろう。
そして、ここにも一人、日本ダービーへ熱い思いを滾らせながら、志半ばでムチを置く男がいる。今週末での引退が決まっている蛯名正義騎手だ。
デビューから5年目でようやくたどり着いた初の競馬の祭典。騎乗馬のシャコーグレイドは3番人気に推されたものの8着。ダービーを勝つことの難しさを知ってから、挑戦すること30年で25回……それぞれ2度ずつの2、3着はあったが、頂点には手が届かなかった。
そんな蛯名騎手にとって忘れられないのは、やはり2012年の日本ダービーだろう。
迎えた最後の直線で先に先頭へ躍り出たのは、ディープブリランテだった。粘るトーセンホマレボシを交して力強く先頭に立つと、岩田康誠騎手の渾身の追いで後続を突き放していく。
しかし、フェノーメノの鞍上・蛯名騎手には自信があった。「馬は最高の仕上がり。レースもこれ以上望めない理想的な流れ」と話した通り、勝つためのすべてが嚙み合っていたからだ。
脚色は俄然フェノーメノ。一完歩ずつ差を詰めると、レースを見守った多くのファンが逆転を予感した。2頭が並んだところがゴールだったが、勢いがあった分、フェノーメノが勝ったようにも見えた。
しかし、写真判定の結果、ハナ差でダービー馬の称号を得たのはディープブリランテ。レース後、蛯名騎手は報道陣に対して「悔し過ぎて、何も言いたくない……」と一瞬“取材拒否”し掛けるほどショックを受けていた。
それでも一騎手として言葉を繋いだ蛯名騎手は「馬は最高の仕上がり。レースもこれ以上望めない理想的な流れ。でも、完璧ならいいわけじゃない」と悔しさを隠さない。世代の頂点まであと一歩、5番人気2着は普通なら上々の結果と言えるかもしれないが、蛯名騎手は「このレースだけは結果が全て。それだけです」と自らを切り捨てた。
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