JRA「単勝1倍台」グラスワンダーが、マンハッタンカフェが轟沈……「亡霊説」まで飛び出した日経賞(G2)の”魔物”に、今年の大本命馬タイトルホルダーが挑む
26日に中山競馬場で行われる今年の日経賞(G2)の主役は、昨年の菊花賞馬タイトルホルダー(牡4歳、美浦・栗田徹厩舎)だ。
出走唯一のG1馬で、昨年の年度代表馬エフフォーリアを筆頭に「ハイレベル」といわれる4歳世代の代表格。『netkeiba.com』の事前予想では単勝1.4倍だが、有力馬のアリストテレスが回避したことで、当日はさらに人気を集めるかもしれない。
最大の目標は春の天皇賞。先週の阪神大賞典(G2)を単勝1.2倍で制したディープボンドを西の大将とするなら、東の大将は間違いなくタイトルホルダーだろう。ここは本番へ向けて負けられない戦いになるはずだ。
しかし、その一方で古くから日経賞は「魔のレース」としても知られている。JRAでも屈指の堅い重賞となる阪神大賞典とは異なり、この中山2500mの戦いは時として大本命馬が信じられないような負け方をする歴史を紡いできた。
中でもファンが最も大きな衝撃を受けたのは、2000年のグラスワンダーの敗戦だろう。
1998年の有馬記念(G1)で劇的な復活勝利を飾ったグラスワンダー。3歳で有馬記念を制した栗毛の怪物は、翌1999年5戦4勝2着1回というほぼ完ぺきな成績を収めている。
安田記念(G1)こそ当時のマイル王エアジハードに後塵を拝したが、宝塚記念(G1)と有馬記念の両グランプリで同期のスペシャルウィークを撃破。この日経賞にはグランプリ連覇を含む3連勝で乗り込んできたのだから、ファンが単勝1.3倍に支持するのも当然だ。
しかし、レースではこれまで通り中団から早め進出を開始したが、まったく伸びず……。連覇を飾った有馬記念と同舞台で本来の伸びを欠くと、10頭中6着という信じられない敗戦を喫した。当時を知る記者が語る。
「実はグラスワンダーは元々脚下に不安のある馬で、前年の有馬記念を勝った後にも脚部不安が出ました。その結果、予定されていた日経賞までまともに調教できず、当日は+18kg。これには主戦の的場均騎手も驚いていたようです。
この敗戦のダメージがあったのか、その後グラスワンダーは続く京王杯スプリングC(G2)で9着に大敗。グランプリ4連覇が懸かった宝塚記念でも6着に敗れて引退しています。『あの日経賞を使わなければ……』というのは、今でもファンの語り草の1つですね」(競馬記者)
なお、グラスワンダーはデビュー戦から的場騎手がずっと手綱を取り続けたことで知られているが、最後のレースでは同期のエルコンドルパサーの主戦・蛯名正義騎手が手綱を握っている。
あの衝撃的な敗戦からわずか2年後、今度はその蛯名騎手が「日経賞の魔物」に飲み込まれることになるとは、当時誰も知る由もなかったであろう。
2002年の日経賞の主役はマンハッタンカフェである。前年の菊花賞馬に加え、有馬記念も制した明け4歳馬。次代の担うエース候補として、ファンが支持した単勝はグラスワンダーを超える1.2倍だった。
しかし、これほどの大本命がまさかの敗戦を喫するのが、日経賞が「魔のレース」と言われる所以だ。
大本命馬として、前走の有馬記念より少し前で勝ちに行く競馬をしたマンハッタンカフェだったが、最後の直線ではまったく伸びず……。8頭立てなから掲示板にさえ載れない6着という不可解な結果に終わると、蛯名騎手からは「後ろに誰か乗っていたんじゃないか」と“亡霊説”まで飛び出す始末だった。当時を知る記者が語る。
「実は当時の小島太厩舎とマスコミは微妙な関係にあったので、マンハッタンカフェはその注目度ほど報道されてなかったんです。
というのも、本馬は前年に菊花賞(G1)と有馬記念を勝っていたにもかかわらず、記者が投票を行うJRA賞で最優秀3歳牡馬に選出されませんでした。同世代に日本ダービー(G1)とジャパンC(G1)を勝ったジャングルポケットがいたからなんですが、直接対決ではマンハッタンカフェが勝っているんですよね。
それにもかかわらず、最優秀3歳牡馬どころか特別賞もなし。前出のグラスワンダーも宝塚記念と有馬記念を勝ちながら、同年に凱旋門賞(仏G1)で2着したエルコンドルパサーがいたせいで年度代表馬を逃した馬ですが、それでも特別賞は受賞していました。
そういう経緯もあって、小島調教師がこの結果に激怒……。微妙な空気の中、日経賞で敗れると続く天皇賞・春(G1)では、ついにマスコミの前に姿を見せなくなりました。どうやら日経賞の敗因が、蹄やトウ骨の脚部不安にあったことが後に明かされています」(同)
その後、マンハッタンカフェは見事天皇賞・春で復活勝利。なおグレード制導入以降、前年の菊花賞から有馬記念と天皇賞・春の王道G1・3連勝を成し遂げた馬は、シンボリルドルフと本馬しかいない。
ナリタブライアン、ディープインパクト、オルフェーヴルといった最強クラスの三冠馬でさえ、手が届かなかった偉業を達成したマンハッタンカフェは間違いなく史上最強馬の一角に名を連ねるはず。だが、この日経賞では“魔物”に飲まれてしまった。
あれから20年後の2022年。現在、日経賞は1番人気が3年連続連対中と平穏を取り戻している。
しかしその一方で、近年5年間で単勝1倍台だったのは2017年のゴールドアクターだけだが、5着に敗れている。やはり“魔物”はまだ消えたわけではないのだろうか。
今年の大本命馬として日経賞に挑むタイトルホルダーだが、一時は右後脚の脚部不安で春全休の可能性も報じられていた。無論、出走してくる以上は問題ないだろうが、陣営からは「ここが100%ではなく、まだ良化の余地を残している」とのコメントも。
相手関係から順当な勝利が期待されるが、本当の敵は日経賞の“魔物”になるのかもしれない。
(文=大村克之)
<著者プロフィール>
稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。
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