JRA大阪杯(G1)武豊「ドン引き」の号泣劇……藤岡佑介「人生で一番泣きました」から14年、ジャックドールで成し遂げたい完全燃焼
「不甲斐ない騎乗に対する反省の弁を書くことしかできない自分が本当に情けないです」
今から5年前の2017年5月のことだ。
競馬対談企画として好評を博していた『with佑』にて、ホスト役の藤岡佑介騎手が異例の反省文を公開した。当時、四位洋文騎手(現調教師)との対談が週単位で連載されていたが、あえてその間に“挟む”ほど、本人にとっても思うところがあったのだろう。
詳細は控えさせていただくが、そこにはクリンチャーと挑んだ日本ダービー(G1)で「やるべきことをひとつもできないまま終わってしまいました」と自らの騎乗の不甲斐なさを反省し、応援してくれたファンへ謝罪が記載されている。人一倍真面目な藤岡佑騎手らしい“反省文”であり、そんな人柄が愛されるからこそ『with佑』は今なお続く長寿企画なのだろう。
しかし、クリンチャーとのコンビはその後、菊花賞(G1)2着、京都記念(G2)勝利と結果を残したが無念の降板。凱旋門賞(仏G1)挑戦に向けて、陣営にとっては海外経験が豊富な武豊騎手をチョイスした形ではあったが「藤岡佑介で凱旋門賞」というプランはなかったようだ。
異例の反省文から1か月後、藤岡佑騎手は6月のマーメイドS(G3)で2017年の重賞初制覇を果たし、7月にもプロキオンS(G3)を勝利。そして、翌年のNHKマイルC(G1)では自身初のJRA・G1制覇を成し遂げている。反省を生かし、また一段トップジョッキーへの階段を上ったことは、周囲から見ても明らかだった。
そんな藤岡佑騎手には過去、先輩ジョッキーが引くほど号泣したエピソードがある。
2019年に『フジテレビONE TWO NEXT』で放送された『武豊TV!II』に出演した藤岡佑騎手。本人が「たぶん人生で一番泣きました」と振り返ったのは、冒頭のクリンチャーとの日本ダービーではなく、初G1となったケイアイノーテックとのNHKマイルCでもなく、2008年の皐月賞(G1)だ。
このレースは、藤岡佑騎手の同期である川田将雅騎手がキャプテントゥーレとのコンビでG1初制覇を飾ったことで、多くのファンに記憶されている。
実は、そのレースにノットアローンと参戦していたのが藤岡佑騎手だった。
前走の若葉S(OP)を逃げ切って皐月賞の優先出走権を獲得したノットアローン。本番でも積極的な競馬が期待されたが、藤岡佑騎手は逃げることもできずに中途半端な位置取りに……。その結果、特に見せ場もなく7着に惨敗した一方、皮肉にも勝利したのは、思い切った逃げに出たキャプテントゥーレと川田騎手だった。
その夜、たまたま東京で会った武豊騎手と藤岡佑騎手は、そのまま2人で飲んでいたそうだが、2人しかいないような店の中で藤岡佑騎手が涙ながらに悔しさを漏らした。同期の川田騎手に先を越されてしまったことが悔しいのではなく、自分の不甲斐なさでノットアローンが不完全燃焼に終わったことが悔しかったそうだ。その号泣っぷりは、武豊騎手が思わず「大丈夫か!?」と引くほどだったいう。
そんな「人生で一番」の号泣から14年。初G1制覇から2勝目が遠い藤岡佑騎手だが、新星ジャックドールとのコンビで挑む大阪杯(G1)でビッグチャンスが巡ってきている。
奇しくもジャックドールもまた、ノットアローンと同じく逃げを得意とする馬。無論、単純に逃げればいいというわけではないだろうが、藤岡佑騎手としては悔いのない騎乗で完全燃焼したいに違いない。
レース後、流すべきはあの時のような悔し涙ではなく、父・藤岡健一調教師に待望のG1制覇を届ける“嬉し涙”であるべきだ。
(文=浅井宗次郎)
<著者プロフィール>
オペックホースが日本ダービーを勝った1980年生まれ。大手スポーツ新聞社勤務を経て、フリーライターとして独立。コパノのDr.コパ、ニシノ・セイウンの西山茂行氏、DMMバヌーシーの野本巧事業統括、パチンコライターの木村魚拓、シンガーソングライターの桃井はるこ、Mリーガーの多井隆晴、萩原聖人、二階堂亜樹、佐々木寿人など競馬・麻雀を中心に著名人のインタビュー多数。おもな編集著書「全速力 多井隆晴(サイゾー出版)」(敬称略)
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