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「そういえば、ビリーヴは牝馬やったな」から20年…「JRA賞」の栄誉は孫世代へ

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撮影:Ruriko.I

 10日、JRAは2022年度のJRA賞を発表。天皇賞・秋(G1)と有馬記念(G1)で古馬を撃破したイクイノックスが年度代表馬と最優秀3歳牡馬に選出された。

 昨年の3歳馬の活躍は短距離路線でも顕著だった。11月のマイルCS(G1)で大外一気の豪脚を披露したセリフォスが、1997年のタイキシャトル以来、実に25年ぶりに3歳馬として最優秀短距離馬に選ばれた。

 セリフォスは288票中過半数の156票を得たが、部門別では最多となる9頭に票が投じられたように、スプリント路線を歩んだ各馬にも一定の票が投じられた。春のスプリントG1を制したナランフレグが36票(2位)を獲得したのに対し、秋のスプリントG1を制したジャンダルムは26票(4位)に留まった。

 セリフォスに大差をつけられたジャンダルムだが、その名前を見て思い出したのは母のビリーヴが見舞われた20年前の“悲劇”だ。

 2000年代はじめに、天性のスピードを武器にスプリント路線で活躍したサンデーサイレンス産駒のビリーヴ。G1・2勝を含む重賞を4勝した名牝で、5歳時には「最優秀4歳以上牝馬」にも選出されている。しかし、その前年は解せぬ理由で「最優秀短距離馬」と「最優秀4歳以上牝馬」を逃していた。

 一条件馬として迎えた2002年。4歳になったビリーヴは準オープンクラスで好走するも、なかなか勝ち上がることができなかった。ようやく夏の小倉で準オープンを2連勝すると、セントウルS(当時G3)で重賞初制覇。さらに初G1のスプリンターズSも勝利し、怒涛の勢いでスプリント界の頂点に上り詰めた。

 暮れの香港スプリント(G1)は12着に敗れたものの、最優秀短距離馬と最優秀4歳以上牝馬の2部門をまとめて受賞する可能性は大いにあった。

 ところが、翌03年1月に発表されたのはいずれの受賞も逃したという知らせ。短距離部門は安田記念(G1)を含めて重賞3勝を挙げ、高松宮記念(G1)とスプリンターズSでともに2着に好走していたアドマイヤコジーンが選出された。これは年間を通しての安定度を考えれば、納得のいく結果だったといえるだろう。

 しかし、古馬牝馬部門では異論の声も少なくなかった。選出されたのはなんとG1未勝利のダイヤモンドビコー。重賞を3勝し、エリザベス女王杯(G1)でも2着に好走していたが、G1ウイナーのビリーヴを差し置いての選出には首を傾げるファンもいた。

「JRA賞」の栄誉は孫世代へ

 この時、まことしやかに競馬サークル内で駆け巡ったのがある噂だった。内幕を語ったのは『競馬ブック』編集局員(当時)の村上和巳氏だった。

 当時、村上氏は『競馬ブック』HP上のコラムで「ビリーヴ嬢の悲運」と題してこのように綴っている。

「ビリーヴが4歳以上牝馬部門で1位に選出されなかったのには理由がある」と書き出した村上氏。「JRA賞が発表になるや否や、周囲から『古馬の牝馬はビリーヴやったな。ついつい短距離部門に入れてしもた』『そういえば、ビリーヴは牝馬やったな』という声が漏れた」のだという。

 実際に村上氏は知人の関東記者から「ビリーヴが牝馬だと気づかなかった」とまで聞かされたというから驚きだ。「投票権を持つ記者諸氏には、きちんとした見識を持って代表馬を決めてほしいとお願いしたい」と結んだ村上氏。あれから20年、今回の年度代表馬はファンも納得の結果となったのだろうか。

 ちなみに23年度からは短距離部門が「マイラー」と「スプリンター」に細分化される。昨年末に現役を引退し、今年から種牡馬となるジャンダルム。母から受け継いだスピードを今度は自身の仔に引き継ぎ、最優秀スプリンターを狙えるような産駒は生まれるか。“ビリーヴの悲劇”から20年、ジャンダルムが手にできなかったJRA賞の栄誉はビリーヴの孫世代へと持ち越される。

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