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「それはとても失礼」武豊の兄弟子の激怒に凍り付いたジャパンC共同会見…米国No.1騎手「世紀の誤認」一番の被害者は勝ち馬?【競馬クロニクル 第21回】

「それはとても失礼」武豊の兄弟子の激怒に凍り付いたジャパンC共同会見…米国No.1騎手「世紀の誤認」一番の被害者は勝ち馬?【競馬クロニクル 第21回】の画像1

 1981年、「世界レベルの馬を作る」というテーマのもとに創設された、日本初の国際レースがジャパンC(G1、東京・芝2400m)だ。

 しかし最初期は決して一流とは言えない外国調教馬(以下、外国馬)に日本の強豪がコロリとひねられるなど、彼我の差を感じさせる結果が続いた。
 
 その後、カツラギエースやシンボリルドルフが勝ったものの、第6回(1986年)以降は再び外国馬に歯が立たないレースが続いた。

 そんななか、日本馬が息を吹き返す時期がやってくる。

 第12回(1992年)でトウカイテイオーが優勝して、シンボリルドルフとともに親仔二代制覇を成し遂げると、翌年の第13回では“穴馬”と見られていたレガシーワールドが日本のセン馬(去勢馬)として初制覇を果たす。
 
 しかし、この年のジャパンCは“ある出来事”によって、曰く付きのレースとなった。今回はその顛末を振り返ってみたい。

米国No.1騎手のまさかのミス

 第13回ジャパンCは豪華な面子が揃ったことで大きな盛り上がりを見せた。まず外国馬のなかで注目されたのは、前走のブリーダーズCターフなどG1レースを5連勝中の米国馬、コタシャーンだった。その手綱をとるのが当時の全米No.1ジョッキーとして名をはせていたケント・デザーモときたため、ファンの目を引きつけるのは当然だった。

 外国馬はほかにも、アーリントンミリオン(米G1、芝10ハロン)を勝ったスターオブコジーン、凱旋門賞(仏G1、芝2400m)で2着したホワイトマズル、前年の本レース2着馬のナチュラリズムなど、実力馬が集結した。

 一方の日本馬も、この年の日本ダービー馬ウイニングチケットをはじめ、菊花賞(G1)、天皇賞・春(G1)を制しているライスシャワー、宝塚記念(G1)と有馬記念(G1)を勝ったメジロパーマー、G1には欠かせない名脇役のナイスネイチャなどが出走態勢を整えて迎え撃った。

 これだけのメンバーのなかに入ると、実績的に見劣るレガシーワールドが単勝6番人気にとどまったのは無理からぬことだった。

 レガシーワールドは、ミホノブルボンを坂路でのスパルタ調教で鍛えてクラシック二冠馬に育て上げた調教師の戸山為夫が見いだした馬である。

 馬っぷりの良さは秀でていたし、調教でも素晴らしい動きをするのに、レース前になるとテンションが急激に上がって本番で力を出しきれないというメンタル的な問題を抱えていたレガシーワールド。気性に難がある産駒を多く出した父モガミの影響も大きかったものと推察されるが、2歳の11月まで同じ要領で未勝利のままだったため、戸山はオーナーとの話し合いの末、気性の難しさを緩めるため去勢に踏み切った。

 骨折などもあって復帰は翌年の6月になったものの、7月の福島で初勝利を挙げてからはかなり“常識にかかる”ようになったレガシーワールドは、9月のセントライト記念(G2)で重賞初制覇を達成。セン馬ゆえに菊花賞に出走できないため、その後はオープン競走に回ってこれを2連勝。ジャパンCは4着に健闘し、続く有馬記念でもメジロパーマーにハナ差の2着に食い込むまでに成長したのだった。

 翌1993年はアメリカジョッキークラブC(G2)で2着に入ったものの、その後に骨折が判明する。そして、その年の5月末に、闘病生活を送っていた戸山が死去。戸山厩舎で調教助手を務め(レガシーワールドの当歳時の視察にも同行している)、この年に開業したばかりの調教師、森秀行のもとへと転厩することとなった。

 そして復帰戦の京都大賞典(G2)でメジロマックイーンの2着としたあと、前年4着に健闘したジャパンCへと再チャレンジしてきたのである(ちなみにメジロマックイーンはレース後に左前肢繋靭帯炎のため引退した)。

 レースは予想どおりメジロパーマーの逃げで進み、レガシーワールドは前走から手綱を託された鞍上の河内洋とぴたりと折り合って、その直後の2番手をキープ。ウイニングチケットは先団の6~7番手を進み、単勝1番人気に推された注目のコタシャーンは中団の後ろ目、12番手あたりを追走した。

 メジロパーマーに競りかける馬がいなかったことから、1000mの通過ラップは60秒0というスローペースで、馬群は一団となって直線へ。内ラチ沿いで逃げ粘るメジロパーマーだが、抵抗できたのは坂下まで。その直後から脚を伸ばしたレガシーワールドが力強いフットワークで先頭に躍り出た。

ウイニングチケットが追撃態勢に入るが、馬場の中央からひと際目立つ脚色で突っ込んで来たのがコタシャーンだ。レガシーワールドとの差を一完歩ごとに詰めて接戦が予想されたが、残り100m付近で鞍上のデザーモが腰を上げて、一瞬追うのをやめたために失速……。

 再び手綱をしごいて追い込みをかけたが、1馬身1/4差で2着に入るのがやっと。レガシーワールドが念願のG1タイトルを手に入れたのだった。

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 デザーモが追うのをやめたことに関して様々な憶測が乱れ飛んだが、残り100mの標識をゴールと誤認した説が大勢を占めた(実際、デザーモはこの件に関して過怠金5万円の処分を受けている)。

 外国人記者が多く訪れるため、当時、優勝馬の関係者への共同記者会見はメインスタンド最上階にある大ぶりなレストランで行われていた。

 壇上のテーブルについたのは調教師の森秀行と騎手の河内洋。はじめにアナウンサーが代表で基本的な質問をし、その後に質疑応答の時間が設けられる手順で会見は進んでいた。
 
 ところが、代表質問が終わったところで森が「ひとこと言わせてほしい」と断ってから、こう述べた。

「勝ち馬に携わっている同じスタッフなのに、調教助手が表彰式に加われないのはおかしいと思う。(中央)競馬会は、ぜひこの件を検討してほしい」

 調教助手出身の森らしい異議申し立てだったが、会場のムードはややピリついた。そこへ、派手な出で立ちで名物記者として知られていた英国のジョン・マクリリックが河内にストレートな、日本流に言えば不躾な質問をぶつけた。

「コタシャーンはデザーモがゴールを間違えたから負けたと思うが、あなたはどう感じたか?」

 この質問に武豊の兄弟子として、普段から温厚な人物であると知られる河内が怒気を声と表情に表しつつ答えた。

「それはとても失礼な言い方だ。デザーモが普通に乗っていてもレガシーワールドが勝っていた」

 会場は水を打ったようにシーンと静まり返った。そして異様なムードを残したまま会見は終了した。

 これが1993年、第13回ジャパンCの顛末だ。

 筆者の私見を記すならば、河内の言ったとおり、デザーモのミスが無くてもレガシーワールドが粘り切っていたと思う。また、仮にコタシャーンがデザーモのゴール誤認によって負けたとしても、それは騎手を起用した陣営の責任に帰す問題だろう。

 今では日本馬の圧倒的な優勢となり、参戦する外国馬は質量ともに低下したジャパンCだが、その勝負に日本馬のスタッフが熱い思いを持って臨んだ時代があったこと、その場に立ち会えたことを幸いだと感じている。(文中敬称略)

三好達彦

三好達彦

1962年生まれ。ライター&編集者。旅行誌、婦人誌の編集部を経たのち、競馬好きが高じてJRA発行の競馬総合月刊誌『優駿』の編集スタッフに加わり、約20年間携わった。偏愛した馬はオグリキャップ、ホクトヘリオス、テイエムオペラオー。サッカー観戦も趣味で、FC東京のファンでもある。

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