JRA R.ムーアが出廷する「落馬」事故とは? 発生当時は日本にいて無関係…驚きの出廷「理由」とは

R.ムーア騎手

 短期免許を取得して年末まで日本国内で騎乗する方針だったR.ムーア騎手が、免許取得の申請を取り下げたことが分かった。

 同騎手はジャパンC(G1)招待騎手として27、28日に東京競馬場で騎乗。その後は日本に留まって、今年一杯騎乗する予定だった。そのため騎乗予定だったチャンピオンズC(G1)のエアスピネルや、ステイヤーズS(G2)のカウディーリョといった馬へ騎乗が出来なくなるなど、競馬関係者を中心に大きな影響を与えているようだ。

 申請を取り下げた理由について、JRAはムーア騎手の母国であるイギリスで2016年に発生した落馬事故に関する裁判へ、証人として出廷する必要があるからだと説明している。『スポーツ報知』によると、ムーア騎手はリモートで出廷可能と認識していたが、裁判所から直接の出廷を求められたという。

 ムーア騎手が出廷する裁判で扱われる落馬事故は、16年10月31日にイギリスのケンプトンパーク競馬場で発生した多重落馬事故であると、イギリスの競馬サイト『レーシングポスト』が伝えている。

 この落馬事故は最終コーナーを回る際に発生。4名の騎手が巻き込まれており、その1人のフレディ・ティリキ元騎手が下半身不随の大怪我を負った。

 ティリキ元騎手は当時30歳で、この年にスピーディボーディングとのコンビで初のG1勝利をするなど、騎手として軌道に乗った矢先の出来事だった。

 そして、今回の裁判の原告がティリキ元騎手である。原告側は落馬事故の原因は当該レースで騎乗していたグラハム・ギボンズ騎手による危険な騎乗が原因として、ギボンズ騎手へ損害賠償を請求している。

 裁判の焦点として挙げられるのが、ギボンズ騎手の騎乗が原因で発生したのかという点だろう。危険騎乗が認められることになれば、賠償請求も認められる可能性が高い。しかしイギリスでは似た事例で裁判が行われたことがあるが、その際は落馬負傷した原告側が敗訴したため、ティリキ元騎手も同様に難航するかもしれない。

 そこでティリキ元騎手側が用意した切り札がムーア騎手である。事故発生当時は日本にいて無関係のムーア騎手だが、原告側の専門家証人として出廷する。

 専門家証人とは、自身の知識や与えられた情報に基づき見解を証言する証人のことを指す。日本の裁判では鑑定人に当たる。

 ムーア騎手は世界各国のG1レースを制し、自国で何度もリーディングジョッキーに輝いたトップジョッキーだ。落馬事故という難しい裁判の専門家証人にうってつけの人物とも言えるだろう。

 ムーア騎手は希望していた日本での騎乗を蹴って、仲間の騎手のために法廷に立つということになる。ムーア騎手の人間性に敬意を表すとともに、無事に公正な判決が下されることを祈りたい。

(文=坂井豊吉)

<著者プロフィール>
全ての公営ギャンブルを嗜むも競馬が1番好きな編集部所属ライター。競馬好きが転じて学生時代は郊外の乗馬クラブでアルバイト経験も。しかし、乗馬技術は一向に上がらず、お客さんの方が乗れてることもしばしば……

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