【特別追悼寄稿】「さらば、坂路の申し子ミホノブルボン」競馬の常識を覆した「雑草魂」は25年の時を経て、天国で待つライバルの元へ
朝日杯3歳S(G1、現・朝日杯FS)、皐月賞(G1)、日本ダービー(G1)と最後の菊花賞でライスシャワーの2着に敗れるまで無敗のまま王道路線を歩んだミホノブルボン。だが、意外にもデビュー戦は芝の1000mで迎えている。
しかし、故・戸山為夫調教師を始めとした陣営からすれば、それは当然の結論だった。血統から判断したミホノブルボンは、紛れもない短距離馬だったのだ。ちなみに父マグニテュードの産駒でミホノブルボンよりも賞金を稼いだのは、1200mの高松宮記念を制したマサラッキだけである。
レースは1000m戦ではあまりに致命的な出遅れを喫しながらも、上がり33.1秒というメンバー最速の末脚で差し切って優勝。後にも先にも、ミホノブルボンが後方から競馬したことはこの一度きりだが、出遅れたとはいえ、翌年の二冠馬のキャリアのスタートはマサラッキと同じ「短距離の差し馬」だった。
ミホノブルボンが「サイボーグ」という異名を持つに至ったのは、戸山調教師が徹底した坂路調教によって、サラブレッドとして鍛え抜かれた完璧な馬体を作り上げたからだ。当時はまだ栗東にしか坂路コースがなく、東高西低の時代の関東馬に勝つため、その利点を最大限に利用した先駆者が戸山調教師だった。
中でも、わずか700万円で取引された”雑草”ミホノブルボンは、坂路で徹底的に鍛え上げられた。今や、競馬界だけでなく社会全体からも消え、非難の対象にさえなりつつある、絵に描いたような「スパルタ」である。
潰れれば「非難」、結果を残せば「称賛」。勝てば官軍負ければ賊軍の世界で、ミホノブルボンはスパルタを乗り越え、2歳時から坂路で古馬並みのタイムを叩き出すほどに成長。従来の”短距離馬”は、その枠を大きく逸脱しようとしていた。
そんなミホノブルボンが「栗毛の超特急」の片鱗を見せたのは、1600mで2番手から抜け出すと、後続に6馬身差つけて圧勝した2戦目以降である。その後、朝日杯3歳Sを制し、翌年のスプリングS(G2)も快勝。単勝1.4倍で迎えた皐月賞で1冠目を奪取している。
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