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「最強の刺客」登場した秋のマイル戦線…アスコリピチェーノ挑戦表明も過疎化懸念

アスコリピチェーノ 撮影:Ruriko.I
アスコリピチェーノ 撮影:Ruriko.I

 9月2週目を迎えた先週末の中央競馬。中京はセントウルS(G2)を菅原明良騎手とトウシンマカオのコンビ、中山は京成杯オータムH(G3)をC.ルメール騎手とアスコリピチェーノのコンビが優勝した。

 秋競馬シーズンの到来というには、まだまだ暑い日々が続くものの、いずれも休み明けの実力馬が夏場に使われたライバルたちに貫録勝ちを決める結果だった。現時点では、これといった新勢力の台頭もなく、本番でも既存の実績馬が上位人気を集めそうだ。

 セントウルSは菅原騎手の冷静な騎乗も目を引いた。

 重賞3勝を挙げていたトウシンマカオだが、これまではすべて右回り。これについては鞍上も半信半疑な部分があったと振り返ったが、道中は中団の後方から外を馬のリズムを優先して追走した。積極策を採った先行勢が2~4着に好走した展開を外から末脚一閃。外枠を引いて難しいレースだったが、宝塚記念(G1)で念願の初G1制覇を遂げて自信もついたのだろう。慌てず騒がずの好判断だった。

「最強の刺客」登場した秋のマイル戦線

 これに対し、京成杯AHを快勝したルメール騎手とアスコリピチェーノは圧倒的な強さを見せつけた。

 道中は中団の外目を走り、不利さえ受けなければ勝てると言わんばかり。いつでも外に出せるポジションを意識した進路取りも、ルメール騎手の泰然自若とした騎乗に繋がったか。最後の直線で満を持してゴーサインが出されると、異次元の切れ味で一気に突き抜けてしまった。

 レース後のコメントで「いつも通りの良い脚」と振り返ったルメール騎手だが、「これなら距離を延ばしてもいいかな」という言葉が出たほど。現在のマイル戦線でアスコリピチェーノがトップクラスの力を持っていることを証明した。

 ただ、本馬を管理する黒岩陽一調教師がゴールデンイーグル(豪G1)の挑戦を表明したことには、頼もしさを感じるとともに寂しさも覚えたのも事実である。

 これだけ強い馬ならマイルCS(G1)でも主役を張れるはずだが、ゴールデンイーグルの開催は11月2日。マイルCSが11月17日であることを考えれば、出走する可能性はゼロに等しい。日本馬が海外で活躍するのは非常に喜ばしいものの、国内のレースで姿を見られないのは残念だ。

 その一方、ゴールデンイーグルの優勝賞金が525万豪ドル(約5億円)と聞けば、納得せざるを得ないのも当然。マイルCSのそれは1億8000万円であり、半額にも満たない格差があるのだ。2着の200万豪ドル(約1億9000万円)にさえ見劣りするのだから、使わない手はないだろう。秋のマイル戦線にとっては、ある意味で最強の刺客といえるかもしれない。

「昨年にオオバンブルマイが優勝したことも大きな影響を与えたはずです。重賞勝ちのある馬とはいえ、国内でトップクラスとはいえない実績でした。それが地元の有力馬を退けてあっさり勝ってしまった訳ですから、秋のマイル戦線の選択肢のひとつとして注目を集めたのは無理のない話でしょう。

コラソンビート陣営の出走表明も、強豪相手の国内よりもオーストラリアならチャンスがあると考えたはずです。むしろアスコリピチェーノの参戦は想定外だったかもしれませんね。賞金的な格差がここまで大きいとなると、今後はさらに流出が増える可能性もありそうです。複数の実績馬を持つノーザンファーム系のクラブは、いわゆる使い分けも視野に入れてくると思われます」(競馬記者)

 日本の競馬はすでに世界トップレベルにあることを証明しているため、積極的な海外遠征を試みる陣営も増えつつある。

 実際、世界最高レベルの高額賞金を誇るサウジC(G1)やドバイワールドC(G1)と日程が近いフェブラリーS(G1)は大物たちの国外流出が目立ち、レースレベルに疑問符がつくと囁く声も出始めている。名誉も賞金も手に入るブリーダーズCクラシック(米G1)に挑戦する馬にとってもチャンピオンズC(G1)に使う意味は薄れた。

 こういった傾向は来年以降も拍車が掛かると見られているだけに、ゴールデンイーグルの存在は秋のマイル戦線で各陣営の選択肢に影響を及ぼすだろう。そうなるといずれはダートG1同様に過疎化を懸念する声が上がる未来もありそうだ。

高城陽

高城陽

大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。

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