【日本ダービー特別再寄稿】その瞬間、競馬は「古き良き時代」を取り戻した。夢を繋いだ日本ダービー馬「絆(キズナ)」の物語<後編>
※この記事は、今月3日に掲載した【ケンタッキーダービー出走特別連載】に加筆、修正を加えたものです。
<前編>はコチラ
佐藤哲三から武豊へ託された「思い」と「至宝」。そして”誓い”――
キズナの手綱を託されてすぐ、武豊は負傷した佐藤哲三の病室を訪れた。同じ関西所属の騎手であり、年齢も一つ違い。お互いに競艇や競輪など、競馬に関係のない話ができる数少ない友人だった。
生死にも関わるような悲惨な落馬事故で、最初の手術は12時間に及んだ。佐藤は騎手として復帰どころか、普通の健康状態を取り戻せるかすらわからない状況だった。しかし、それ以上にキズナという圧倒的な素質を持った至宝のような馬と出会いながら、怪我で乗れない無念は、同じ騎手である武も深く理解していた。
それでも佐藤は、キズナの鞍上を引き継いでくれたのが「ユタカさんで本当によかった」と話し、武はそんな盟友にキズナでの日本ダービー(G1)制覇を誓ったという。
佐藤の思いを受け取った武とキズナだったが、重賞初挑戦となったラジオNIKKEI杯2歳S(G3)で生涯初の敗北を喫してしまう。超が付くほどのスローペースを先行したが、本来の末脚を発揮できなったキズナは2歳シーズンを終えた。
さらに3歳の初戦となった弥生賞(G2)では一転して後方からレースを進めたが、勝負所で進路が塞がる不利もあって5着。クラシック出走に黄色信号が灯った。
だが、鞍上の武は弥生賞で見せたキズナの非凡な末脚に確かな手応えを感じていた。
続く「皐月賞への最終便」といわれる毎日杯(G3)では、広い阪神の外回りコースでキズナの末脚が爆発。2着に3馬身差をつける圧勝で、重賞初制覇と同時にクラシック出走の切符を掴んだ。
そこで陣営は、クラシック第一弾となる皐月賞(G1)の回避を決断。ローテーションの問題もあったが、それよりも小回りの中山競馬場ではキズナの本来のパフォーマンスが発揮できない可能性が高いと判断したのだ。
目の前の栄冠より、馬の特徴を優先した判断は正解だった。日本ダービー(G1)の前哨戦として挑んだ京都新聞杯(G2)で、キズナはさらに進化した姿を披露。佐藤から受け継いだ武の教育もいよいよ完成の域に近づいたのか、まったく危なげない勝ちっぷりで単勝1.4倍の圧倒的な人気に応えた。
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