「彼女が一番」武豊に長年の思い人ーー 「盟友」と同じくらい大事な、思い出の桜花賞馬との「幻想」と感動秘話
「それは皆さんのご想像にお任せしましょう」
1989年、栗東のトレセンで取材陣に囲まれた若干20歳の若者は、そう言って不敵に微笑んでいたという。当時、改修以前の旧阪神コースにおいて「大外枠は絶対的に不利」と言われていた桜花賞(G1)のセオリーを覆し、2勝目のG1勝利を飾ったばかりの武豊だった。
牝馬クラシック第一弾・桜花賞の数日前。前走で牡馬を蹴散らして、重賞初制覇を飾ったシャダイカグラと武豊のコンビは最有力とみられていた。しかし、発走枠順抽選会でシャダイカグラ陣営は”鬼門”の大外枠を引いてしまう。
当時の桜花賞が施行される阪神競馬場の芝1600mのコースは、スタートして間もなく急カーブが控えていた。つまり、スタートが外枠であればあるほど必然的に大回りを強いられるコース形態。それはコンマ1秒を争う競馬では「致命的な不利」と言われていたのだ。
シャダイカグラの一強ムードだった桜花賞は、一転して混戦といわれるようになった。ただ、それでも当日の1番人気はシャダイカグラと武豊。「例え大外を回っても、シャダイカグラが勝つ」それがファンの出した結論だった。
しかし、桜花賞がG1になってからこれまで大外枠から勝利した馬は一頭もいなかった。物理的に考えれば、その不利はあまりにも圧倒的。「いくらシャダイカグラでも厳しい」という見方も多々あった。
ただ、それはシャダイカグラと武豊が”まともな競馬”をした場合の話である。
桜花賞のスタートが切られた瞬間、阪神競馬場全体がどよめきに揺れた。シャダイカグラが大きく出遅れたのだ。「致命的な大外枠の上に、出遅れ……完全に終わった」多くの武豊ファンが頭を抱え、そう思ったかもしれない。
だが、再びシャダイカグラに目を向けると、信じられないようなことが起こっていた。
なんと出遅れたはずのシャダイカグラが、あっという間に中団までポジションを上げている。1頭だけ出遅れたことで内側にいた他馬に置いていかれ、結果的にインコースがぽっかり空いたのだ。
そこに潜り込んだシャダイカグラはコーナーリングの不利を受けることなく、あれよあれよとポジションを上げていく。最後の直線を迎えるころには、先頭を完全に射程圏に収めていた。
阪神競馬場に詰めかけた多くの競馬ファンがまだ我が目を疑っている間、最後まで粘っていたホクトビーナスをシャダイカグラが測ったように捉えたところがゴール。「外枠不利」という桜花賞のセオリーを根底から覆した武豊は、あっさりと2勝目のG1を手にした。
そうなるとマスコミを始め、競馬ファンの間で若き天才・武豊が「大外の不利を帳消しにするため、わざと出遅れたのではないか」という憶測が広まるのは当然だ。当の本人も冒頭にあったように、リップサービスではぐらかして”真相”は闇の中……。
「ユタカマジック」と銘打たれた”伝説”が一人歩きを始めた瞬間だった。
だが、桜花賞を制し「ユタカの恋人」と呼ばれていたシャダイカグラと武豊の物語は、衝撃的なクライマックスを迎えることとなった。
PICK UP
Ranking
17:30更新- ルメール軍団「誤算続き」で迷走中?使い分けの弊害に一部ファンから疑問の声
- クロワデュノール「世代最強説」に現実味も…ダービー馬候補が未勝利戦より遅い時計の怪
- 武豊×ドウデュース完全包囲網で波乱含み!?豪華メンバーのジャパンCにチェルヴィニア、ブローザホーン、オーギュストロダンら最強メンバー集結。レジェンド元JRA騎手の見解は?
- 「別競技」の高速馬場で欧州最強マイラーの意地見せたチャリン!ジャパンC参戦オーギュストロダン、ゴリアットに朗報?
- C.ルメール「アンラッキー」な過怠金に謝罪…マイルCSでも「牝馬のC.デムーロ」の手綱冴えるか?
- エアスピネル降板に武豊騎手は「何」を思う……8年前、すべてを手にしてきた天才騎手が”最大級”の屈辱を味わった「ウオッカ事件」とは
- 【京都2歳S(G3)展望】藤田晋オーナーの大物エリキングが登場! ジョバンニ、サラコスティがリベンジに燃える
- 【ジャパンC(G1)展望】「ディープ」オーギュストロダンVS「ハーツ」ドウデュース、2005年有馬記念から19年越しの最終決戦!
- 春のG1戦線に水を差す「醜聞」続く…現役騎手の父に詐欺容疑、G1馬オーナーが逮捕
- 「3大始祖」消滅の危機……日本で「2頭」世界で「0.4%」の血を残すべく立ち上がったカタール王族の「行動」に称賛