JRA社台グループの“劣等生”追分ファームの2歳勢が快進撃!昨年の“泥沼”より4か月も早い4勝目……。その陰にオルフェーヴルに携わったある人物の存在
20日、東京5Rでは2歳新馬(芝1400m)が行われ、M.デムーロ騎手騎乗の2番人気キミワクイーン(牝2歳、美浦・奥村武厩舎)が、2着レッツリブオンとの追い比べを制した。
好スタートからいったんはハナに立ったキミワクイーン。道中は好位の2番手を追走し、手応え抜群で直線を向くと、上がり2位タイとなる33秒6の末脚を繰り出し、2着馬に3/4馬身差をつけた。デムーロ騎手は「途中で被されてもしっかりと走ってくれました。直線でも他馬に来られた時に、坂でグイっと伸びてくれました。とてもまじめな馬でセンスがあり、競馬が上手です」とべた褒め。ロードカナロア産駒の楽しみな牝馬が登場した。
この勝利にSNSなどでは「また追分ファームの生産馬が勝った」と話題に。新馬戦がスタートして3週間が経過したが、同ファーム生産馬は9頭が出走し、すでに4勝を挙げる活躍。ノーザンファームの7勝には及ばないが、昨年からは想像もできないペースで勝利を量産している。
18年に追分ファームで生産された1つ上の世代(現3歳)は、なかなか勝利を挙げられず、初勝利はのべ29戦目の8月15日(イルーシヴパンサー)だった。さらに世代4勝目を挙げたのは、夏の暑さも過ぎ去った10月11日。昨年に比して今年は4か月近くも早く4勝目を挙げたことになる。
追分ファームといえば、1995年に開場した社台グループの一員。同グループでは、最も新しい生産牧場で、開場後は比較的早くから活躍馬を輩出。2000年代前半にゴールドアリュールやハットトリックが国内外のG1を制覇した。
その後は低迷した時期もあったが、13-14年にフェノーメノが天皇賞・春(G1)を連覇。最近ではペルシアンナイトが17年にマイルCS(G1)を勝っている。
ところがサングレーザーなどもいたペルシアンナイト世代以降は重賞出走すらままならない状態が続いた。現3歳世代に至っては57頭がデビューしたが、2勝馬が3頭いるだけ。社台グループの中では“劣等生”的な位置付けで語られることも少なくない。
それからわずか1世代での大逆転劇にはある人物の存在が大きいという。
「現在、追分ファームの育成牧場、リリーバレーで調教マネージャーを務める藤田洋一氏の手腕が大きいと言われています。長らくノーザンファーム空港で調教主任をしていた藤田氏は、2020年に現職に就任しました。空港時代には、三冠馬オルフェーヴルや3歳時に安田記念を勝ったリアルインパクトなども手掛けたそうで、2歳時から動ける馬の育成に深く携わってきた人物です。リリーバレーで2年目を迎え、その成果が出始めたのではないでしょうか」(競馬記者)
キミワクイーン以外に勝ち上がった2歳馬は、ビーオンザマーチ、セリフォス、そしてメリトクラシーの3頭。このうちセリフォスは新潟2歳S(G3)、メリトクラシーは函館2歳S(G3)と、次走の予定もすでに出ている。4世代(現3~6歳)続けて重賞出走もままならなかった追分ファーム生産の2歳世代。“追分旋風”はまだ始まったばかりだ。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。