JRA「競馬界の七不思議」武豊はなぜ朝日杯FS(G1)を勝てないのか? 恨み節も出た「空気の読めないイタリア人」が今年も強敵
競馬を知らない人でも、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう武豊騎手。デビュー当初から次々とそれまでの記録を塗り替えていく姿は、まさにニューヒーロー誕生を予感させた。
そんなかつての若き天才も今やデビュー35年目の52歳。これまで数多くのタイトルを獲得してきたレジェンドでも、勝利にまだ手が届いていないG1が残っている。競馬界の七不思議のひとつとなっている未勝利JRA・G1が、今週末の朝日杯FSと暮れのホープフルSだ。
ただ、2017年からG1へと昇格して4年の後者はまだ歴史も浅い。こちらはそこまで苦手意識はなさそうだが、こと朝日杯FSについては苦渋を飲まされてきた歴史がある。
振り返れば初騎乗となった1994年、スキーキャプテンとのコンビでフジキセキの2着に敗れてから、昨年のドゥラモンドまでなんと21連敗。JRA・G1完全制覇を期待されている武豊騎手にとって大きな障害の一つとなっている。
その一方、ここまでの連敗となったことには仕方のない部分もあることは確か。成績自体は【0.5.2.14/21】で2着が5回もあるように、必ずしも苦手な条件とも言い切れないのだ。
ただ、そのとき敗れた相手がいずれも大物ばかりだった。
先述の94年は相手が三冠馬候補とも呼ばれたフジキセキ、翌95年にエイシンガイモンで敗れた相手は後の秋の天皇賞馬バブルガムフェロー、98年にはエイシンキャメロンで後の安田記念馬アドマイヤコジーンなど強敵揃い。しかも武豊騎手が騎乗して敗れた馬は、その後もG1を勝つこともなく引退した馬ばかりである。
なかでも最も戴冠に近づいたのは、エアスピネルとのコンビで挑んだ15年だろう。デビュー2戦をいずれも楽勝したこともあり、ファンは単勝オッズ1.5倍の大本命に支持。直線半ばで抜け出したシーンでは、ついに“歴史的瞬間”を迎えたかに思われたものの、最後方から大外を豪快に伸びて来たリオンディーズの前に勝利を攫われてしまった。
このときの3着馬シャドウアプローチと2着エアスピネルとの着差は、なんと4馬身もの大差。武豊騎手からすれば「リオンディーズさえいなければ」という結果に終わっている。これにはボートレース住之江のトークライブに出演した際、「空気の読めないイタリア人がいたもんで……」と、M.デムーロ騎手への恨み節をこぼして会場の笑いを誘ったものの、その胸中は複雑だったはずだろう。
そして朝日杯制覇に再挑戦する今年、武豊騎手がコンビを組むのはキーファーズの秘密兵器ドウデュース(牡2、栗東・友道康夫厩舎)。14日現在、『netkeiba.com』の単勝予想オッズで4番人気の伏兵評価だが、デビューから芝1800mで2戦無敗とまだ底を見せていない好素材。派手な勝ち方こそしていないが、前走も12キロ増で快勝するなど成長力もある。
気になる天敵のM.デムーロ騎手は、先週の阪神JF(G1)をサークルオブライフで制して好調だが、今回騎乗を予定しているプルパレイの評価はそれほど高くない。となると最大の強敵はやはり1番人気が予想されるセリフォスだろうか。
そういえば、セリフォスに騎乗を予定しているのはM.デムーロ騎手の弟C.デムーロ騎手である。もしかすると、今度は兄ではなく弟が「空気の読めないイタリア人」を再現するなんてこともありそうだ。
とはいえ、年齢的に残された現役生活もそう長くないレジェンド。そろそろ勝利する姿を見られることに期待したい。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。