「8.28新潟」は伝説の一日?イクイノックスが成しえなかった“ぶっつけG1制覇”に「遅れた来た大物」ソネットフレーズが挑む

 8日、東京競馬場で行われる第27回NHKマイルC(G1)。快速自慢の若駒たちが府中に集い、3歳マイル王の座をかけて激突する。

 この大舞台に、前走から6カ月もの間隔を空けて挑むのがソネットフレーズ(牝3歳、美浦・手塚貴久厩舎)だ。

 もともと両後肢のボーンシスト(=関節の軟骨の下にある骨が発育不良を起こし発生する骨病変)による手術歴があり、キャロットクラブでも1歳夏の通常募集では名前が出ていなかった同馬。だが、状態に不安がなく、その後も足元に問題が見つからなかったため、2歳春から募集された経緯がある。

 デビューに向けて慎重な調整が続けられ、昨年8月に新潟の新馬戦に出走すると、2着に3馬身1/2差をつける圧勝劇。2歳牝馬の有力馬として一躍注目を集めた。

イクイノックスとの共通点「8.28」

 

 しかし、その後は馬体がまだしっかりしていない点に加え、レース後は背腰に疲れも見られたということでノーザンファーム天栄へ放牧。「年内2走は厳しい」という判断の下、12月の阪神JF(G1)という構想もあったというが、1勝馬では出走が叶うか不透明ということで断念。11月のデイリー杯2歳S(G2)に挑戦することになった。

 直線では逃げ馬を交わして先頭でゴールに向かって伸びていくも、結果はクビ差の2着。この時に先着を許したのが、今回のNHKマイルCでも1番人気が予想されるセリフォスだった。

 相手は新馬勝ちの後に新潟2歳S(G3)で重賞を制覇。その後の朝日杯FS(G1)でも1番人気で2着に入るほどの馬だったことを考えれば、決して悲観すべき結果ではない。

 ところが、桜花賞(G1)に向かう道のりも順風満帆にはいかなかった。賞金加算を狙って2月のクイーンC(G3)を目標に進むも、追い切りで球節を痛めてしまうアクシデントに見舞われる。再調整の結果、今年は1度もレースに出走することができないまま、NHKマイルCに挑戦することになった。

 半年ぶりの今年初戦が牡馬混合のG1レース。やはり“休み明け”という部分は気になるポイントだが、管理する手塚貴久調教師は「思っている以上に状態は良い」と仕上がりの良さを強調する。

 ノーザンファーム天栄で同馬の慎重な調整を見守ってきた木實谷雄太場長も、クイーンC時の頓挫の後については「思ったよりも回復に時間が掛かった」と振り返りつつ、「肉体面に関してはボリュームが増した。成長を促すという意味では良い期間になった」と語り、レースに使うことができなかった期間をむしろ前向きに捉えているようだ。

 かつてのG1戦線と言えば、ステップレースを叩いていざ本番という流れが主流だった。だが、近年では外厩施設の充実や厩舎のノウハウの蓄積もあり、休み明けのフレッシュな状態でいきなり大舞台を使うというケースも珍しくない。

 記憶に新しいところでは、イクイノックスが皐月賞(G1)に中147日という異例のローテーションで挑み、勝利こそならなかったが2着と健闘。もし勝っていれば、皐月賞の「最長間隔優勝」と、デビューから3戦目という「最少キャリア優勝」の記録をダブルで打ち立てていたことになる。

 実は、このイクイノックスとソネットフレーズには共通点がある。デビューが同じ「2021年8月28日の新潟競馬場」だったということだ。

 イクイノックスは5Rの芝1800m戦で2着に6馬身差をつける圧勝。ソネットフレーズは6Rの芝1600m戦で初勝利。ちなみに、イクイノックスの新馬戦で3着だったのが、後に阪神JF(G1)を勝つ2歳女王・サークルオブライフ。「8.28新潟」はこの世代にとっての“伝説の一日”と言える。

 また、イクイノックスもノーザンファーム天栄が調整に関わっており、木實谷場長は皐月賞に挑む際にも「レースを使わない方が、この馬の器の大きさをより大きくできると感じた」とコメント。レースを使うことによる精神的な成長よりも、若駒のうちはなるべく消耗を避け、馬体の成長をできる限り促していくことで馬を強くするという方法に積極的に取り組んでいる。

 競馬界の常識に風穴を開けてきたノーザンファームが送り込む、この春2本目の矢。もしソネットフレーズが悲願を果たせば、キャリア3戦目でのNHKマイルC制覇は2012年のカレンブラックヒルと昨年のシュネルマイスターの記録を更新する「最少キャリア優勝」。

 さらに、中175日での勝利となれば、2014年にミッキーアイル(前走・アーリントンC)が打ち立てた中70日を大幅に更新する「最長間隔優勝」となる。

 イクイノックスが果たせなかった“ぶっつけ勝ち”を成し遂げ、新たな常識を作ることができるか。ノーザンファームの期待も背負って、ソネットフレーズが半年ぶりの大一番に挑む。

(文=木場七也)

<著者プロフィール>
 29歳・右投右打。
本業は野球関係ながら土日は9時から17時までグリーンチャンネル固定の競馬狂。
ヘニーヒューズ産駒で天下を獲ることを夢見て一口馬主にも挑戦中。

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