JRAディープボンド、イクイノックス、ピクシーナイト…活躍馬続々のトレンドにまた1頭大物出現! 約20年の雌伏の時を経て復活した「キングの真価」とは
これこそが「キングの真価」ということだろうか。
3日、札幌競馬場で行われた注目の2歳重賞・札幌2歳S(G3、芝1800m)は、1番人気のドゥーラ(牝2歳、栗東・高橋康之厩舎)が勝利。2年前に桜花賞馬のソダシ、そして昨年も皐月賞馬のジオグリフが勝った“超”出世レースを、今年もスケール感溢れる大物が制した。
この時期の2歳馬には貴重な芝の中距離重賞。冒頭に記載した通り、過去の勝ち馬には数々の後のG1ホースの名も並んでおり、今年も来年のクラシックを見据える好素材が集結した。
「新馬、2戦目と上がり(3ハロン)は最速。道中リズム良く走らせれば必ずいい脚を使ってくれるので、僕が上手くエスコートできればと思っていました」
そんなハイレベルの一戦で1番人気に推されたドゥーラは、スタートから無理せず好位集団を見るようなポジション。「開催が進み馬場も荒れていた」と話す斎藤新騎手が外々の進路を選択すると、最後の直線では先に抜け出した2着ドゥアイズをきっちりと捕らえて重賞初制覇を飾った。
「これが通算重賞3勝目になった斎藤騎手ですが、ゴール直後には、まるでG1を勝ったかのような派手なガッツポーズが飛び出していました。一昨年のソダシ、昨年のジオグリフと過去の勝ち馬の顔ぶれからも『このレースを勝つことが、どういうことなのか』を考えれば、その気持ちもわかりますよね。
今年が4年目の斎藤騎手ですが、G1騎乗は昨年のヴィクトリアマイルが最後。来年のクラシックを戦うパートナーを得たことは、ジョッキーにとっても非常に大きいと思います」(競馬記者)
記者が話す通り、札幌2歳Sの過去20年の勝ち馬を振り返っても、ジオグリフとソダシに加えて、レッドリヴェール(阪神ジュベナイルフィリーズ)、コディーノ(朝日杯フューチュリティS・2着)、ロジユニヴァース(日本ダービー)、アドマイヤムーン(ジャパンCなど)といったG1級の活躍をした馬たちは、いずれも上位人気に応えてこのレースを制覇している。これだけを見ても、ドゥーラの将来が大きく開けたことは間違いないだろう。
また、別の記者はドゥーラの血統面に注目したようだ。
「昨年のスプリンターズS(G1)を制したピクシーナイト、セントライト記念(G2)を勝ったアサマノイタズラ、さらに今年の天皇賞・春(G1)で2着だったディープボンド、皐月賞(G1)と日本ダービー(G1)で2着のイクイノックス、桜花賞(G1)2着のウォーターナビレラ……。
これらの馬たちには『母父がキングヘイロー』という共通点があります。正直言って、種牡馬として成功したとは言い難いキングヘイローですが、ブルードメアサイヤーとして近年抜群の存在感を放っています。ドゥーラもまた“トレンド”に乗った1頭と言えるでしょうし、今後の活躍を裏付ける大きな要素ではないでしょうか」(別の記者)
父は1980年代で「史上最強」との呼び声も高いダンシングブレーヴ、母はケンタッキーオークスなど米国のG1を7勝した名牝グッバイヘイロー。1997年にデビューしたキングヘイローは、世界中のホースマンが注目する超良血馬だった。
そんな周囲の期待に応えるように、デビューから3連勝で東京スポーツ杯3歳S(現2歳S、当時G3)を制したキングヘイローだったが、スペシャルウィークやセイウンスカイ、グラスワンダー、エルコンドルパサーなど、この1998年クラシック世代は後に「黄金世代」と呼ばれるほどの逸材揃い。
皐月賞2着など、クラシックに手が届かなかった本馬は、そんな“時代の波”に飲まれた不幸な1頭と言えるだろう。
その後、11度目のG1挑戦となった高松宮記念(G1)を制し、何とか世界的良血馬の威厳を保ったキングヘイロー。だが、血統面で大いに期待された種牡馬としてもG1馬はローレルゲレイロ(スプリンターズS)、カワカミプリンセス(オークス)の2頭だけと、その血は弱肉強食の生存競争の中にほぼ埋もれてしまっていた。
キングヘイローら黄金世代の馬たちがターフを去ってから20年以上の時が経っているが、昨年リリースされた大人気競馬アプリ『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)で、その存在が大きく取り上げられるなど、ここ1年で再び脚光を浴びている。
最近のキングヘイローの活躍は、まるで『ウマ娘』の人気に呼応するかのようだ。かつて世界から注目されながらも、その期待に応えられなかった超良血馬が、約20年の雌伏の時を経て大舞台で復活したことは、まさに競馬のロマンと言えるだろう。
「スタートが上手で運びたいポジションで運べるし、どこからでもいい脚を使えるのが強みです」
出世レースを制し、来年のクラシック候補に躍り出たドゥーラもまた、そんな「キングヘイローの真価」を知らしめる一頭になるに違いない。