宝塚記念(G1)イクイノックス「ドバイ圧勝」が凡走の引き金に?福永祐一調教師が語っていた持論「逃げた後の難しさ」
25日の宝塚記念(G1)を残すのみとなった春のG1戦線。今年はフルゲート18頭に20頭がエントリーし、うち8頭がG1ウイナーという豪華メンバーが揃った。
そんなハイレベルな一戦で断然の1番人気が予想されるのは、G1を3連勝と勢いに乗る昨年のJRA年度代表馬イクイノックス(牡4歳、美浦・木村哲也厩舎)である。
昨春は皐月賞(G1)と日本ダービー(G1)でともに2着に惜敗したが、ひと夏を越えて秋に本格化。ぶっつけ本番で臨んだ天皇賞・秋(G1)で待望のG1タイトルを手に入れると、続く有馬記念(G1)、ドバイシーマクラシック(G1)も制した。
一部では初となる関西圏での競馬を不安視する声もあるが、レース3週間前に早々と栗東入り。当初は新たな環境に戸惑う場面もあったようだが、当日までには態勢を整えてくるだろう。
まず、イクイノックスが初の海外遠征を敢行した前走を改めて振り返ってみたい。
ドバイに到着した当初は輸送による疲れや馬体減りといった状態不安説が出ていたイクイノックスだが、レースではそんな不安を微塵も感じさせない圧巻の走りを披露した。
好発を決めた各馬が牽制しあう中、ハナを切ったのはそれまでほぼ差す競馬に徹していたイクイノックスだった。最初の1000mを推定1分2秒台のマイペースで通過すると、後続から競りかけられることなく、抜群の手応えで4角を迎える。直線を向いて軽く気合をつけられると、素早くギアを上げノーステッキのままゴール板を駆け抜けた。最後は鞍上のC.ルメール騎手が後ろを振り向くほどの余裕で世界に衝撃を与えた。
世界の強豪相手に3馬身半差をつけたレコード勝ちにケチをつける余地はなさそうだが、「ハナを切った」ことが、イクイノックスにとって不安要素のひとつとなるかもしれない。
「ドバイ圧勝」が凡走の引き金に?
「1回逃げてしまった馬は我慢が利きづらい」
これは福永祐一騎手(現調教師)が2年前の宝塚記念前にYouTube『カンテレ競馬』のインタビューで語ったフレーズなのだが、前走で初めて逃げの手に出たイクイノックスにとっても、当てはまる可能性がある。
この時は川田将雅騎手を背にその年の大阪杯(G1)を逃げ切ったレイパパレを例に挙げ、それまで控える競馬で我慢することを教えられていた馬が一度逃げると、その後控える競馬に戻すにはかなりの労力が必要で、次のレースで成績を落とすことが多いという趣旨の持論を語っていた。
つまり、本質的に逃げ馬ではない馬が安易に逃げてしまうと、次走以降、行きたがってしまい、折り合いがつきにくくなる恐れがあるということだろう。実際にレイパパレも大阪杯の勝利を最後に、その後は1勝も挙げることなく引退している。
イクイノックスの鞍上を務めるルメール騎手が福永師と同じ考えを持っているかどうかは定かではないが、果たして前走の作戦は次も見据えた上でのものだったのだろうか。
ルメール騎手はドバイで逃げた理由をレース後に明かしていたので紹介したい。
それは競馬ライターの平松さとし氏が、4月1日に『Yahoo!ニュース』内に掲載した『ルメールは、イクイノックスの逃げをいつ考え、独走の直線では何を思っていたのか?』というオーサー記事。詳細については本記事を参照していただきたいが、平松氏によるとルメール騎手はドバイで逃げた理由を次のように語っていたという。
「初めてのナイター競馬とスタンドの音を気にしていたみたい」
「逃げ馬がいないからスローペースになると思った事もあり、加えてこの雰囲気なら“逃げよう”と決断しました。控える競馬だと、掛かって冷静に走れなくなると思ったんです」
初めての環境でやや集中力を欠くイクイノックスの雰囲気から、ルメール騎手は、他馬を前に置く競馬では折り合い面に不安を感じていたということだろう。その日の馬の状態から最も勝てる可能性の高い策を取ったということが伝わる内容だった。
つまり、結果的に目先の勝利を選んだといってもいいかもしれない。
今回は阪神競馬場という新たな環境下での一戦。ドバイの時と同様に集中力を欠くようなら、前走に続き逃げる可能性もゼロではないが、ユニコーンライオンやドゥラエレーデなど、行きたい馬が多い今回は、おそらく元のスタイルに戻すだろう。
だが、逃げて圧勝した前走でルメール騎手が「控える競馬だと、掛かって冷静に走れなくなる」と危惧していたことも事実。今回は国内での競馬となるが、関東と関西という意味では“慣れない環境”という共通点はあるだけに心配だ。
1強ムードで迎えるため、他陣営から厳しいマークにあうことも予想される。ルメール騎手はこの包囲網をいかにして破るのか、そして逃げた後の難しさにどう対応するのか。この春最注目の大一番が近づいている。
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