「上村先生やったらしゃあない」最高額1億円馬は熱血調教師の“情熱爆発”で誕生!? ベラジオオペラ陣営の爆笑エピソード【特別インタビュー】
「9/11」というデータがある。
確率にして81.8%。これは伝統の皐月賞トライアル・スプリングS(G2)を無敗で制した馬が、後にG1馬になる可能性だ。
最近ではキタサンブラックが該当。皐月賞(G1)、日本ダービー(G1)の春二冠で連敗した当初は有望な3歳馬の1頭に過ぎなかったが、秋に菊花賞(G1)を勝ってG1馬になると、古馬になってからは現役最強馬に君臨。北島三郎オーナー×武豊騎手というド派手な看板で一時代を築いたことは、多くの競馬ファンの記憶に残っている。
その前のミホノブルボン、ミホシンザンは共にクラシック二冠馬。グレード制導入前に遡れば、コダマ(皐月賞、日本ダービー)、シンザン(三冠)、ハイセイコー(皐月賞)、キタノカチドキ(皐月賞、菊花賞)、テンポイント(天皇賞・春、有馬記念)、ハギノカムイオー(宝塚記念)と錚々たる名馬が名を連ねている。※()は主なG1級勝ち鞍
そして、キタサンブラックのスプリングS勝ちから8年後の2023年。12頭目の無敗勝ち馬が誕生した。ベラジオオペラ(牡3歳、栗東・上村洋行厩舎)である。
セレクトセールで主取りになり、翌年の千葉サラブレッドセールにおいて4410万円で落札。この春は皐月賞10着、日本ダービー4着。現時点で本馬がG1馬になることを想像できないファンもいるはずだ。
しかし、振り返ってみればキタサンブラックも、ミホノブルボンも決して良血馬というわけではない。それもサクラバクシンオー(キタサンの母父)、マグニテュード(ブルボンの父)という短距離血統を持ちながら、“常識”を覆してチャンピオンディスタンスで活躍したことは、ロードカナロア産駒でありながら2400mの日本ダービーで勝ち馬とタイム差なしまで迫ったベラジオオペラと重なる部分がある。
皐月賞馬ソールオリエンス、ダービー馬タスティエーラが注目される今年の3歳牡馬だが、この異端のロードカナロア産駒を追いかける価値は十二分にあるはずだ。
そこで今回、GJ編集部はベラジオコーポレーション株式会社の森川幸平社長を再び直撃。今年4月に次ぐ2度目のインタビューとなるが、それくらい今の「ベラジオ」は話題豊富で、何より勢いがある。
馬主、調教師、そしてベラジオオペラ。彼らが進むサクセスストーリーの裏側に迫った。(7月13日収録)
※前回インタビューはこちら。
――お久しぶりです、今回もよろしくお願いいたします!
ベラジオコーポレーション株式会社・森川社長(以下、森川社長):こちらこそ、よろしくお願いします!
――まずはベラジオオペラの日本ダービーのお話から伺おうと思いますが、3番人気に推された皐月賞で10着という残念な結果に終わって迎えたダービーでした。
森川社長:皐月賞はハイペースに巻き込まれてしまったことが敗因と言われているんですけど、確かにそれもあるんです。でも、それ以上に4コーナーで水溜まりがあったことが大きかった。
――改めてレース映像を振り返ると、確かに4コーナーで大きくバランスを崩していますね。
森川社長:そうなんですよ。最後の直線では、もう一度盛り返しているんですけど、あれが痛かった。まさか直前にあんなに雨が降るとは……。前の馬が総崩れのレースでしたけど、タスティエーラが(4角4番手から)2着に来てるんですから、オペラももっとやれたはずやと思ってます。
――「こんなもんじゃない」という思いはあった。
森川社長:正直、ありましたね。
――そんな中で日本ダービーを迎えるにあたって、田辺裕信騎手から横山和生騎手への乗り替わりがありました。
森川社長:世間では田辺ジョッキーがペース判断を誤った(ハイペースで先行した)って言われてますけど、私の中では責める気持ちは全然ないんですよ。むしろ、「ひょっとしたら……」くらいには思ってて。騎手もわかってると思うんですよ、それ(4コーナーの水溜まり)がなかったらって。
――そんな不運もあって迎えた日本ダービーですが、惜しい4着。あの走りを見たファンの間では「NHKマイルC(G1)なら勝てたのでは」という声もありました。ベラジオオペラは(2012、13年の最優秀短距離馬)ロードカナロア産駒ですし、重馬場のスプリングSで強い勝ち方をしています。
森川社長:実は、その選択肢も少しはありました。というのも(ベラジオオペラを管理する)上村(洋行)先生の中に皐月賞を回避するプランがあったんですよ。
――中山開催の最終週の荒れた馬場を走るダメージを避けたかった?
森川社長:それも少しあったみたいですけど、上村先生が「日本ダービーだけは譲れん」って。私らの中では賞金も大事ですし、皐月賞もNHKマイルCもダービーどれも大事って思いはあったんですけど、やっぱり上村先生はダービーに懸ける思いが凄い大きかったんですよね。
――上村調教師は騎手としても活躍されてましたし、やはり日本ダービー制覇はホースマンの夢。
森川社長:騎手時代のナムラコクオー(1994年に2番人気)もそうですけど、やっぱりサイレンススズカ(1997年に4番人気)は「今でも忘れられん」って。(千葉サラブレッドセール初日の)前日に飲みに行って「サイレンススズカだけは忘れられん。あんな馬にもう一度巡り会いたい」って何度も言うてはりました。
――そんな上村調教師の思いを受けてのダービー挑戦。
森川社長:ホンマは、スプリングSから日本ダービーに直行したかったみたいです。「(尊敬する)藤沢和雄調教師ならそうしてる」って。でも「まだ自分は実績のない調教師なので(セオリー通りにした)」って言うてました。※上村厩舎は開業5年目ながらリーディング6位(7/25日現在)。
――上村調教師を信頼されてるんですね。
森川社長:(JRAの馬主として)実績のない我々とずっと一緒にやってきてくれてますから。お世話になってるチャンピオンヒルズの大西厩舎長も含めて、ずっと二人三脚でやってきました。
――まさに一心同体というか「チーム・ベラジオ」ですね。
森川社長:実際、馬主仲間の方からも言われましたよ。「ダービー1本とか。上だけを見てるというか、さすがですね」って褒めてもらって。「そ、そうなんですよー」って言うときました(笑)。
――(一同爆笑)。
森川社長:それで今年の千葉サラ(千葉サラブレッドセール)で「めっちゃ面白いこと」があったんですよ。
――今年の千葉サラというと、ベラジオ(名義は林田祥来オーナー)がダンサーデスティネイションの2021を1億円で落札。今年の落札最高額としてニュースにもなっていましたね。ただ、いきなり大きなお金を投入されていたので驚きました。
※これまで園田競馬を中心として数百万円の馬を所有してきた「ベラジオ」だったが、昨年の千葉サラでエアルーティーンの2020(後のベラジオオペラ)を4410万円で落札。そして今年、合計1億5600万円で3頭を落札している。
森川社長:いや、あれね……(笑)。上村先生の勢いが凄すぎて。
――えええっ!?
森川社長:パイロ(グラッブユアダイヤの2021)の時にね、だいぶ競ってて、3000万円近い時にオーナーが手挙げたんですよ。そしたら上村先生がその手を下ろすように言いはって……。降りるんかと思ったら「僕、挙げてるんで」って……(笑)。
――www
森川社長:もう、勢いに押されて(笑)。1億円(ダンサーデスティネイションの2021)の時も僕が持ってたカタログ掴んで1人で前の方に行って、ずっと手挙げてるんですよ。
――上村調教師、めちゃくちゃ熱くなってますね(笑)。
森川社長:前の日の居酒屋で「落ち着いて行きましょ。セリになったら皆熱くなるから」って言うてたんですけどね。「僕は長年やってるからわかってるんですよ。馬と一緒で、ちゃんと折り合いを……」って言うてたのに、自分が一番熱くなっとるやないかって(笑)。
――これ、(記事に)書いちゃっていいんですか!?
森川社長:いいですよ、「上村先生が買った」って書いといてください(笑)。でも、フィーリングが合うんでしょうね、めちゃくちゃ真剣なのが見ててもわかるんです。そういう人って信頼できるじゃないですか。「上村先生やったらしゃあない」って納得できるんですよ。
――素晴らしい関係ですね。そういえば、その千葉サラから約2週間後にベラジオオペラの日本ダービーがありましたが、最後は上位4頭がクビ+ハナ+ハナの大激戦。結果的には大変惜しい4着でした。
森川社長:皐月賞で負けてしまったので、全然人気はなかったんですけど(9番人気)「チャンスはある」と思ってました。最後も勝ちはなくても2着はあるかなと思ったんですけど……。
――ほんの数センチの差でしたからね。ちなみに日本ダービーの2着賞金は1億2000万円ですが、4着だと4500万円。“あの”千葉サラの後だったこともあって、やっぱりショックは……。
森川社長:ショックなんてもんちゃいますよ、倒れそうになりました(笑)。
――(笑)。さて、そんな悔しいダービーを終えて秋に向かっていくわけですが、ベラジオオペラは上村調教師から神戸新聞杯(G2)というお話がありました。やはり、菊花賞を目指すことになるのでしょうか?
森川社長:最終的には上村先生が決めることですけど、菊花賞の予定です。
――ベラジオオペラはロードカナロアの産駒。やはり3000mが気になるところです。
森川社長:距離の不安は(2400mの)日本ダービーの前から言われてたこと。ただ、アーモンドアイやサートゥルナーリアみたいに母系次第で長い距離をこなせるロードカナロア産駒もいますから。
――ベラジオオペラの母エアルーティーンの一族には、菊花賞を勝ったエアシャカールの名も。
森川社長:ダービーでも、あれだけの走りを見せてくれましたしね。僕の中ではロードカナロアというより(祖父の)キングカメハメハのイメージです。クラシックは一生に一度ですし、オペラみたいな馬は私らにとっても一生に一度かもしれません。とりあえず同世代と戦える内は、王道を行こうかなと思ってます。
――今年は皐月賞馬のソールオリエンスや、ダービー馬のタスティエーラも菊花賞へ向かう予定ですし、ベラジオオペラの参戦はファンとしても嬉しいです。お話は少し変わりますが、秋と言えば千葉サラで落札された馬たちのデビューが早くも気になるところ。話題の1億円馬ダンサーデスティネイションの2021は「ベラジオボンド」とのことですが、いかがでしょうか?
森川社長:もうゲート試験には合格してて、9月の阪神デビューの予定だそうです。
――ベラジオオペラと同じロードカナロア産駒ですが、こちらの血統はスピードタイプに見えます。
森川社長:順調に行けばの話にはなりますけど、とりあえずの目標は朝日杯(フューチュリティS、1600m)になるでしょうね。オペラは胴長(基本的に胴長は長距離向きと言われている)ですけど、こちらはそうじゃないので。
――ベラジオとしては(税込みで)初の億超えホースとなりますが、手応えのほどは?
森川社長:わかりませんけど千葉サラの公開調教もそうですし、チャンピオンヒルズの方でもかなりの時計で動けてるそうです。
――この馬もベラジオオペラと同じく、一度はセレクトセールで主取りになっている馬。
森川社長:実はあの馬、右前のつなぎが立ち気味なんですよね。おそらく、それで主取りになったんだと思いますけど、社台ファームの関係者様が「この馬は走ってくる」と……。
――(ベラジオボンドを生産した)社台ファーム関係者様のお墨付き!?
森川社長:「馬はそう(右前のつなぎが立ち気味=走らない)じゃない。評価を見返したいし、この馬の走りで証明したい」って言うてはったんです。
――社台ファームといえば、サンデーサイレンスのエピソードが有名ですよね。幼少の頃に脚が曲がっており、あの馬もセリで主取りを経験しています。ところが蓋を開けてみれば、米国で二冠を達成して、年度代表馬に。種牡馬として日本に渡ってからは、大革命を起こしました。
森川社長:それを上村先生も聞いてたから、あんなに熱くなったんでしょうね(笑)。元から自信もあったみたいですし。
――そういったエピソードを聞くと、ますます期待が膨らみますね! ベラジオオペラを大将に、今年の2歳馬にはベラジオボンドだけでなく、ベラジオケンシロウ(園田)、ベラジオラオウ(グラッブユアダイヤの2021)、ベラジオハルカと楽しみな馬が揃っています。
森川社長:オペラのダービーは本当に悔しかったんで「またこの舞台に戻ってきたい」と思ってます。今後の詳細も弊社YouTube『ベラジオちゃんねる』でどんどん発信していくので、よかったらぜひ見てください!
――ありがとうございました!
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