【スプリンターズS(G1)】「史上2人目」の偉業がかかる団野大成に立ちはだかる“2つの壁”
10月1日は中山競馬場でスプリンターズS(G1)、夜にはフランスの凱旋門賞(G1)と楽しみなレースが続く。
秋のG1シリーズ開幕戦としてもお馴染みのスプリンターズSだが、昨年の覇者ジャンダルムは現役を退いて種牡馬となっており、今春の高松宮記念(G1)を制したファストフォースも秋を待たずして電撃引退で種牡馬入り。JRAのスプリント戦線は確固たる王者不在の状況で秋の大一番を迎えた。
今年の出走馬を見ても、ナランフレグやピクシーナイトといったG1勝ち馬の名前はあるとはいえ、両者とも近況は振るわないだけに、新星の誕生にも期待がかかる。
群雄割拠の短距離路線で新王座に就くのは一体どの馬か。直近のG1馬が不在となれば、自然と目が向くのが“夏の王”だろう。今年のサマースプリントシリーズを制してここに挑むジャスパークローネ(牡4歳、栗東・森秀行厩舎)である。
春に2勝クラスと3勝クラスを連勝してオープン入りを果たしたが、夏の初戦・函館スプリントS(G3)こそ16着という大敗。重賞の壁に跳ね返されたかと思いきや、続くCBC賞(G3)と北九州記念(G3)を連勝して夏の栄冠を手中に収めてしまった。
勢いのままにG1獲りまで駆け上がりたいジャスパークローネ陣営にとって、夏の2連勝の立役者となった団野大成騎手とのコンビで挑むことができるというのは心強いポイントだ。
同騎手といえば、高松宮記念をファストフォースとのコンビで制し、デビュー5年目で嬉しいG1初勝利を掴んだことが記憶に新しい。その1勝も含めて今年の重賞4勝のうち3つが芝1200m戦という短距離巧者でもある。
もし今回も優勝が叶えば、「異なる馬で同一年のスプリントG1春秋制覇」となり、これは長い日本競馬の歴史の中でも1997年の岡部幸雄元騎手(シンコウキング&タイキシャトル)以来で史上2人目という快挙だ。それがG1初勝利からの2連勝での達成となれば、今後もなかなかお目にかかれないレアな記録となることだろう。
「史上2人目」の偉業に立ちはだかる“2つの壁”
ただし、そのためには乗り越えなければならない壁もある。そのひとつが、スプリンターズSにおける“夏の王”の苦戦の歴史である。
2006年に創設されたサマースプリントシリーズは昨年までに17回行われ、このうち14年のリトルゲルダを除くすべてのチャンピオンホースが夏の栄冠を引っ提げてスプリンターズSに挑んだのだが、その成績は【1-2-2-11/16】という散々な結果に終わっている。
その要因を一つに絞ることは困難だが、やはり真夏に最低でも2戦以上を戦うことがチャンピオンの条件となることに加え、シリーズ制覇を達成すればボーナスが手にできるとあって、陣営の仕上げにも自然と力が入ることだろう。その上で秋にもう一戦となると、いわゆる“お釣りが残っていない”というパターンも少なくないのではないか。
勝率にしてわずか「6.3%」という数字も苦戦を物語る。19年のタワーオブロンドンしか打ち破ることができなかった壁が、団野騎手とジャスパークローネの前に立ちはだかるといえよう。
さらにもう一つ懸念点を付け加えるとしたら、今年のスプリンターズSは展開面も大きなカギとなりそうだ。ここ2戦は鮮やかな逃げ切り勝ちで2連勝を飾ったジャスパークローネだが、ライバルを見渡してみると主導権を握るのはそう簡単ではない。
特に気になるのが、前哨戦のセントウルS(G2)を制したテイエムスパーダの存在だろう。1年前のCBC賞を1分5秒8というJRAレコードで逃げ切った実績を持つ同馬だが、今夏はジャスパークローネにハナを譲って2番手から失速という競馬が続くなど、なかなか自分の形に持ち込むことができずに苦しんでいた。
ところが、セントウルSでは初コンビの富田暁騎手が思い切ってハナを奪うと、後続の追撃をしのいで狙い通りの逃げ切り勝ち。14番人気・単勝112.6倍という低評価を覆す衝撃の復活星を挙げた。
レース後、富田騎手は「この馬の形の競馬ができれば強いと思っていました」と振り返っており、今回の一戦に向けても『netkeiba.com』の取材に対して「速い馬がいるのはわかっていますが、僕も自信を持って出していきたい」と述べ、持ち味を活かした競馬に徹する覚悟を表明している。
さらにこの他にも、今年の葵S(G3)で驚きのロケットスタートを決めて逃げ切り勝ちを果たしたモズメイメイの名前もあるだけに、いくらテンの速さに自信があるジャスパークローネといえどもハナを切れる保証はないのだ。
偉業がかかる団野騎手には、過去の歴史とレース展開という2つの壁が立ちはだかる。腹を括った騎乗で春に続く栄冠を掴み、新たな相棒にG1初勝利をもたらすことができるか。今年のスプリンターズSはゲートが開く瞬間から目が離せない。
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