藤岡佑介「アグレッシブに行った結果」も3秒2差の大差負け…悔やまれる昨年のディフェンシブ、天皇賞・秋ジャックドールに「正解」は存在したか
先週末に行われた天皇賞・秋(G1)は、単勝1.3倍の圧倒的1番人気に支持されたイクイノックスが、2着ジャスティンパレスに2馬身半の差をつけて完勝。国内外でG1を5連勝した「世界最強馬」は、その称号に相応しい走りを披露した。
1分55秒2の勝ちタイムは、当然の如く東京芝2000mにおける断然のレコード。2011年の天皇賞・秋でトーセンジョーダンがマークした1分56秒1を0秒9も更新する怪物ぶりだった。
かつてC.ルメール騎手が主戦を任されていたアーモンドアイが、4歳秋に制した天皇賞・秋の勝ちタイムは1分56秒2。両馬の比較を質問した『中日スポーツ』の取材に対し、ルメール騎手が「どちらが強いのかは分からない。どちらも全部持っている」と評したように、芝G1・9勝を挙げた名牝と比較されるほど、その存在は大きくなりつつある。
天皇賞・秋を優勝したことでイクイノックスの総賞金は17億1158万2100円となり、オルフェーヴルを抜いて歴代6位に浮上。もし次走に予定しているジャパンC(G1)を優勝すれば、現在1位のアーモンドアイ(19億1526万3900円)を上回る歴代トップに躍り出ることになる。
そんなイクイノックスの強さばかりが目立った今年の天皇賞・秋だが、この令和の怪物に敢然と立ち向かったのが、藤岡佑介騎手とジャックドールのコンビだ。目を疑うようなスーパーレコードで決着したレースだが、その一因となった人馬を抜きにしては語れないだろう。
スタートして果敢にハナを奪い切ると、1000m通過57秒7の激流に持ち込み、そのまま最後の直線で粘り込みを狙いたかったが、後続にピタリとマークされる展開で息を入れるタイミングも作れず。最後は力尽きて勝ち馬から3秒2遅れてのゴール。積極策が持ち味の馬とはいえ、あまりにも残酷な現実だったといえる。
大敗を振り返った藤岡佑騎手も「他の出方次第ですが、向正面ではハナに立っていこうというのは決めていました」「あのペースだったら後ろを離して逃げたいという意図だったのですが、ぴったりくっついてこられているのが分かっていました」と、ジャックドールを襲った想定外の展開に戸惑ったものの、「これだけの勝ち時計の競馬でアグレッシブに行った結果だと思います」と、“やれることはやった”というニュアンスで振り返った。
ジャックドールに「正解」は存在したか…
「見ているこちらも気の毒になるくらいキツイ展開でしたね。行く構えを見せたガイアフォースを制しましたが、直後をずっとつつかれる感じでしたし、その後ろにはイクイノックスが馬なりでついてきていたんですから……。
藤岡佑騎手の言う通り、あのペースなら大逃げになってもおかしくなかったはずです。昨年大逃げしたパンサラッサが1000m通過57秒4で、今年のジャックドールが57秒7。いくら飛ばしても楽について来られた訳ですから、逃げている側からしたら生きた心地がしません。
イクイノックスが昨年のように後方待機策を採ってくれたら、もしかするとここまでの大敗を喫することはなかったのかもしれませんが、あの勝ち方を見せられては、何度やり直してもイクイノックスが勝ったでしょうね」(競馬記者)
そういう意味では、絶対王者が3番手にいた時点で、他馬に付け入る隙など最初からなかったようにも感じられる。それほどまでに相手が強過ぎたのだから、ジャックドールに限らず勝機はなかったのかもしれない。
確かにジャックドールは、これまで前半をマイペースに持ち込み、速い上がりで抜け出す競馬で好走していた馬である。玉砕気味に肉を切らせて骨を断つパンサラッサとは、好走スタイルも少々違ったか。
ただ藤岡佑騎手の勇気ある判断を評価するファンが多かったことも事実。一部では「飛ばし過ぎた」という声も出ていたようだが、仮にペースを落としていたとしてもガイアフォースやイクイノックスにハナを奪われていた可能性が高い。結果的に誰が乗っても「正解」があったのかどうかは分からない。
惜しむらくは、昨年の天皇賞・秋で積極性を欠いたと受け取られかねない騎乗をしてしまったことだろう。
このときはパンサラッサを凌ぐ好発を決めながら控える選択。そのまま後続を引き離した相手に対し、追い掛けずに4番手を追走したため、最後の直線を迎えた際には10馬身以上も離された位置から追い掛けざるを得なかった。
しかも道中のラップ的に、離された2番手以降の馬はスローの瞬発力勝負に近く、ジャックドール自身も上がり3ハロン33秒5の末脚を繰り出しながら、それを遥かに上回る32秒7をマークした1着イクイノックス、同32秒8の3着ダノンベルーガにも交わされ、36秒8の2着パンサラッサにも先着を許して4着。今年が「アグレッシブ」だったとすれば、昨年は「ディフェンシブ」といったところだろうか。
「捕まえきれず後方から差される形になりました」とレース後にコメントした藤岡佑騎手だが、この敗戦を機に武豊騎手への乗り替わりが発表され、ジャックドール陣営にとって悲願のG1初制覇となった大阪杯(G1)は、レジェンドの華麗な手綱捌きとペース判断によってもたらされた。
父である藤岡健一調教師から「申し分ない状態」「レースのことは鞍上に任すが、自分のペースでリズムよく先行できれば」と送り出された今年のジャックドール。今回は武豊騎手がドウデュースに騎乗するため、回ってきたチャンスでもあった。
次走で引き続き藤岡佑騎手の続投となるか、それとも武豊騎手に再び戻るか、それとも別の騎手か……。引き続き注目したい鞍上の行方である。
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