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【ジャパンC】あのトウカイテイオーが5番人気!? 欧州最強女王に、英ダービー馬2頭、豪州年度代表馬…史上最高の豪華メンバーが集った国際G1元年【競馬クロニクル 第32回】

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【ジャパンC】あのトウカイテイオーが5番人気!? 欧州最強女王に、英ダービー馬2頭、豪州年度代表馬…史上最高の豪華メンバーが集った国際G1元年【競馬クロニクル 第32回】の画像1

 いまなお「名馬」と呼ばれ続けるサラブレッドのなかで、波乱万丈な現役生活を送ったという意味で真っ先に名前を挙げられるのはトウカイテイオーだろう。

 1990年12月のデビューから無敗の5連勝で皐月賞(G1)を制し、続く日本ダービー(G1)も2着に3馬身もの差を付けて圧勝。「この世代に敵なし」と印象付けたものの、レース後、歩様に異常をきたしたため検査を行った結果、左第3足根骨を骨折していたことが判明。全治半年との診断を受け、父シンボリルドルフと同様に無敗での三冠制覇を夢見た多くのファンを落胆させた。

 復帰戦は日本ダービーからほぼ1年後となる大阪杯(G2、当時)に決定。同時に、鞍上はそれまでコンビを組んでいた安田隆行が本格的に調教師試験の準備にかかるため、降板を申し出た。

 そこで白羽の矢が立ったのは、シンボリルドルフの全戦で手綱をとった名手・岡部幸雄だった。

 

「(追えば)地の果てまでも走っていけそう」

 単勝オッズ1.3倍という圧倒的な支持を受けたトウカイテイオーは、道中3番手からあっさり抜け出すと“馬なり”で大阪杯を快勝。いつもは極めてクールに受け答えする岡部だが、この馬については「(追えば)地の果てまでも走っていけそう」と興奮気味な口調でコメントし、テイオーのフリークたちを狂喜させた。

 次走の天皇賞・春(G1)は、前年度の覇者にして、中長距離路線で最強と謳われたメジロマックイーンとの対決が実現。戦前から「無敗のテイオーが上だ」「いや、2400mまでしか走っていないテイオーよりマックイーンのほうが強い」などと喧々諤々の熱い論争が繰り広げられ、ファンの盛り上がりは最高潮に達した。

 迎えた大一番。単勝は、ひとつ年嵩のメジロマックイーン(オッズ2.2倍)を抑え、トウカイテイオーが1.5倍の1番人気に推された。

 しかし、決着はあっさり付いた。トウカイテイオーは、最終コーナーで先頭に立ったメジロマックイーンに並びかけたが、脚色はすでにここで一杯になっていた。独走態勢に持ち込んだマックイーンを前に見ながら、テイオーは1秒7もの差を付けられて5着に沈んだ。これが自身初の敗戦だった。

 そのうえレースの翌週、右前肢の剥離骨折が判明。ごく軽症ではあったが、秋の戦線復帰を睨んで再び休養に入った。

 骨折は早く癒えて、9月には栗東トレーニング・センターへ帰厩したトウカイテイオーだが、調整の過程で熱発があったことから仕上げが予定より遅れ、天皇賞・秋(G1)にはぶっつけ本番で臨むことになる。管理調教師の松元省一いわく、「(出走に)ぎりぎり間に合った」と、必ずしも満足できる状態にはないことを匂わせていた。

 メジロパーマーとダイタクヘリオス、稀代の逃げ馬2頭が揃った当年の天皇賞・秋は、1000mの通過ラップが57秒5というスプリント戦並みの超ハイペースとなった。

 そして驚くことに、トウカイテイオーは3番手につけていたのである。しかしこれは、鞍上が思い描いた走りではなかった。休養明けでテンションが上がり、名手の岡部をしても抑えきれないほど“行きたがった”がゆえの位置取りだったのである。

 結局、2番手で最終コーナーを回ったトウカイテイオーは、直線半ばで力尽きて7着に敗れた。調教師の松元は、天皇賞をステップにジャパンCでピークにもっていくという絵を描いていたが、「(この結果では)そんなことは言えない」と肩を落とした。

 落胆したのはスタッフだけではなく、ファンも同じだった。「もう復活は無理かもしれない」とテイオーの行く末を悲観する声も多く聞かれた。

【ジャパンC】あのトウカイテイオーが5番人気!? 欧州最強女王に、英ダービー馬2頭、豪州年度代表馬…史上最高の豪華メンバーが集った国際G1元年【競馬クロニクル 第32回】の画像2
撮影:Ruriko.I

 トウカイテイオーが続いて臨んだジャパンCは、“レース史上最高”と言われる豪華メンバーが顔を揃えた。それはジャパンCがドメスティックなグレードではなく、国際セリ名簿基準委員会によって国際G1と認定されたことが影響していた。

 英・愛オークス(ともにG1)を制し、凱旋門賞(G1)で2着に入ったユーザーフレンドリー(User Friendly)。ドクターデヴィアス(Dr. Devious)、クエストフォーフェイム(Quest for Fame)という2頭の英ダービー馬。豪州年度代表馬に選出された名牝レッツイロープ(Let’s Elope)。AJCダービー(オーストラリアン・ダービー、G1)の覇者、ナチュラリズム(Naturalism)。米G1のアーリントンミリオンを制したフランスのディアドクター(Dear Doctor)。

 これだけのメンバーが集結すると、前走で惨敗したトウカイテイオーの単勝がオッズ10.0倍の5番人気に甘んじたのも故ないことだと言えた。

 しかし“皇帝”シンボリルドルフの仔は、不屈の闘志で天皇賞とは別馬になったように見事なレースを見せる。

 前日の雨の影響が残って馬場状態は「重」となったものの、晴天となった府中の杜には17万人を超える観衆が詰めかけた。場内放送をかき消すほどの大歓声に沸くなかゲートが開くと、レガシーワールドが逃げ、それにドクターデヴィアスが続くなか、トウカイテイオーはそれらを見ながら4番手を追走する。天皇賞・秋と同じ先行策ではあったが、その走りっぷりはまったく異なった。鞍上とぴたりと折り合い、彼特有の弾むようなフットワークをすっかり取り戻していたのである。

 第3コーナーを過ぎて岡部に気合を付けられて前との差を詰めたトウカイテイオーは、先行馬の外を回って直線へ向いた。レガシーワールドやドクターデヴィアスが粘りを見せるが、テイオーはそれらを交わして先頭に立つかに見えた。

 しかし、そのとき内ラチ沿いを抜け出したナチュラリズムが鞍上の激しい“風車ムチ”に叱咤されて末脚を伸ばしていた。直線の半ばまで外から追い込んでくる馬を警戒していた岡部は、ナチュラリズムにターゲットを切り替えるとテイオーを内へと導き、馬体を併せて闘志をかき立てる。

 そしてゴーサインのステッキを入れられたテイオーは、粘りに粘るナチュラリズムに並びかけ、わずかに先んじると、岡部の“見せムチ”に励まされながら、その差を保ったままゴール。200mにもわたって繰り広げられた火の出るような激闘にクビ差で決着を付けたのだった。

 馬に余計な負担をかけることを嫌う岡部が、右手で小さくガッツポーズをしたことが、その喜びの大きさを表していた。

 勝利者だけの特権である本馬場からの帰還を果たしたトウカイテイオーと岡部に対して熱狂的な拍手と歓声が送られ、そのうちアイネスフウジンの日本ダービー(1990年)をきっかけに習い性となった騎手の名を呼ぶ「ナカノ・コール」よろしく、この日は「オカベ・コール」が湧き上がった。

 トウカイテイオーは日本の生産・調教馬で初の国際G1勝ち馬として名を残し、岡部はテイオーの父であるシンボリルドルフで制した1985年以来、7年ぶり2度目の優勝ジョッキーとなった。

 今や日本の馬たちの能力が著しく向上したうえ、速い時計が出る日本馬の“ホーム”で勝つのは至難の業となり、世界レベルのトップホースの参戦がほとんどなくなってしまった。トウカイテイオーが勝った12回目のジャパンCは、国際レース特有の華やかさを表すピークだったのかもしれない。(文中敬称略)

三好達彦

三好達彦

1962年生まれ。ライター&編集者。旅行誌、婦人誌の編集部を経たのち、競馬好きが高じてJRA発行の競馬総合月刊誌『優駿』の編集スタッフに加わり、約20年間携わった。偏愛した馬はオグリキャップ、ホクトヘリオス、テイエムオペラオー。サッカー観戦も趣味で、FC東京のファンでもある。

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