無策? 武豊×ドウデュースは「何故」敗れたのか。単勝165倍の最低人気に絡まれた想定外の宝塚記念…最大最強の宿敵イクイノックスがもたらした意外な弱点とは
宝塚記念(G1)1番人気のドウデュースは6着
23日、京都競馬場で行われた春のグランプリ・宝塚記念(G1)は、3番人気のブローザホーン(牡5歳、栗東・吉岡辰弥厩舎)が勝利。今年のG1はすべて異なる騎手が勝利していることが話題になっていたが、上半期の総決算でも菅原明良騎手が自身初のG1勝利を飾った。
18年ぶりの京都開催も然ることながら、前日から降り続いた「雨」が注目された今年の宝塚記念。直前の芝レースだった瀬田特別(2勝クラス)でも、最後の直線では真ん中よりも外に馬が殺到する異常な展開だった。11番、15番、18番で決着したように、こうなると必然的に外枠の馬が有利、内枠の馬たちはどうやって外に持ち出すかが大きな課題となったはずだ。
そんな中で、3枠3番からスタートしたベラジオオペラは称賛に値するのではないだろうか。
最後は勝った外枠のブローザホーンと、同世代の皐月賞馬ソールオリエンスのキレに屈したものの、道中は内々の好位を進んで最後の直線で外に出されると、最後まで上位争いを演じた。G1初制覇となった前走の大阪杯(G1)もそうだが、横山和生騎手と上村洋行調教師は本当に馬場傾向が良く見えている印象だ。
その一方で、残念な競馬に終わったのが1番人気で6着に終わったドウデュース(牡5歳、栗東・友道康夫厩舎)だ。
武豊騎手のシミュレーションの中では、最悪に近い展開
昨年末の冬のグランプリ・有馬記念(G1)を勝った際、主戦の武豊騎手が「来年もう1回行こう! フランス行こう」と誓い、今年の宝塚記念は秋の凱旋門賞(仏G1)再挑戦の壮行レースとなるはずだった。
日本だけでなく、世界最強となったイクイノックスが去った今年の競馬界で、同世代のダービー馬ドウデュースに掛かる期待は大きく、この宝塚記念でも史上最多の得票数を集め、レース当日もファンは単勝2.3倍の1番人気に支持した。
その一方で、管理する友道調教師が「ドボドボの馬場じゃなければ」と懸念していた今年の宝塚記念は、16年ぶりの重馬場開催。先述した外枠有利の極端な傾向に加え、国内では良馬場しか経験したことのない4枠4番のドウデュースにとって、難しいレースになってしまった。
レースでは、そんな懸念がモロに表面化した。好スタートを決めたドウデュースだったが、武豊騎手は無理せず後方から。1コーナー入り口までに外に持ち出す理想的な出だしだったが、外からヤマニンサンパが蓋をしたことで進路が制限された。
しかし、レースは2200mの序盤に過ぎない。後方のまま向正面に入ったドウデュースは武豊騎手が再び進路を外に持ち出そうとするが、やはりヤマニンサンパが譲らない。単勝165倍の最低人気だった本馬だが、鞍上の団野大成騎手からすると1番人気馬に楽をさせない当然の選択だろう。
打開策を見いだせないまま向正面を終え、レースはいよいよ「淀の下り坂」と言われる勝負どころの3、4コーナーを迎える。ドウデュースは、なんと最後方。外に出口もなく、この時点で武豊騎手が事前に描いていたシミュレーションの中では、最悪に近い展開だったのではないだろうか。
ここで「4コーナーで外へ行くと外過ぎるかなと思って内へ」と、強引に外を回さず、腹を括ってロスの少ない内を突いたのは、多くの選択肢を失った武豊騎手が取った最善の策だったのかもしれない。
しかし、ポジションこそ上がったが、最後の直線の進路は馬場状態の悪い内を通らざるを得ない展開。最後まで懸命に外を目指したドウデュースだったが、馬場状態の良い外を走る馬たちのアドバンテージは余りにも大き過ぎた。
結果だけを見れば、ドウデュースの弱点がモロに出てしまった印象だ。
最大最強のライバル・イクイノックスの存在
というのも、ドウデュースは同世代にイクイノックスという最強馬がいた影響もあって、常にチャレンジャーという立場だった。宝塚記念で史上最多のファン投票に加えて、レースでも1番人気になるような実力馬だが、その一方で過去に1番人気……つまりは最もマークの厳しくなる本命になったレースはキャリア13戦で4度しかなかった。それも人気に応えて勝ち切ったのは、デビュー戦とメンバーの薄かった京都記念(G2)の2戦だけだ。
今回は、ほとんど思うような競馬ができなかった中での敗戦。結果は残念だったが、武豊騎手は最後まで懸命だったし、あの展開で6着まで追い上げられるのはドウデュースが非凡な存在である証だ。ただ、目標にしていた秋の凱旋門賞については、黄色信号が灯ったと言わざるを得ないだろう。
レース後、「折り合いはいつもの感じだったし、状態も良さそうだっただけに残念」と痛恨の敗戦を悔しがった武豊騎手。敗因を「道悪のせいにしたくない」という言葉には、今回以上の道悪になることも珍しくない凱旋門賞への諦めきれない思いが表れたように感じたのは筆者だけだろうか。
この春の古馬王道路線を制したベラジオオペラも、テーオーロイヤルも、ブローザホーンもG1初制覇。ドウデュースが、イクイノックスが去った今年の競馬界を支える中心的な存在であることに変わりはない。この馬はまた我々にドラマを見せてくれるはずだ。
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