競馬大吟醸 -日本ダービーな人々- 「あの時のオークスの逆転を信じて、今年は武豊から」
公言していた通り、チェッキーノとビッシュから入った梅ちゃんがオークスを的中。これで桜花賞に続き、牝馬二冠達成である。
しかし、今回は配当が安かったこともあって”あぶく銭”の散財は自重。ほとぼりが冷めた女将さんが田舎から戻ってきてまだ数日、いくら豪快だけが取り柄の梅ちゃんでもそこまで馬鹿ではないようだ。さすが馬にしても人にしても、女の扱い方をよくわかっている。
一方の私はロッテンマイヤーから入り見事に撃沈。馬にしても人にしても、女を見る目がないのは昔からなので、今さら気にしても仕方ない。
それにしてもデムーロ先生の復帰以降、やはり好調を取り戻した梅ちゃん。今週はダービーなだけに私もそろそろ連敗に終止符を打ちたいところである。試しに梅ちゃんに「やはり今週もデムーロから行くの」と本命を伺ってみると自信満々に「当然」と返された。
「デムーロ大先生ってだけじゃねえ。このリオンディーズは、あのオークス馬シーザリオの倅(せがれ)だっていうじゃねえか。あの強烈なオークスは忘れもしねえ。福永の盆暗が下手に乗りやがったが、信じられない位置から飛んできた。あれは馬が人を勝たせたんだ」
確かにあのオークスは、私にも強い印象が残っている。あの時点で「なんだ、この牝馬は」とびっくりしたものだが、その僅か数日後に今度はアメリカでオークスを勝ってしまうのだから、変に納得してしまったものだ。
「そのシーザリオの倅リオンディーズは、まさにダービーを勝つために生まれてきたような馬だぜ。見ろ、この体。今年のダービーは、この馬で決まりよ」と新聞の写真を広げながら、高笑いする梅ちゃん。
そこまで強く言われると、なんだか本当にリオンディーズが勝ってしまいそうな気がする。今の私はそれくらいで簡単に揺らいでしまうほど、馬券に自信を失っているのだ。一瞬、ここはツイてる奴に乗ろうかとも考えたが、競馬を愛する者として一年に一度のダービーくらい、自分の力で当てたいものだと思い直す。
そこで私は思い切って、武豊のエアスピネルから勝負することにした。
リオンディーズの母シーザリオがオークスを勝った時、2着だったのが何を隠そうエアスピネルの母エアメサイアである。それも、エアスピネルの祖母エアデジャヴーもオークス2着で涙を飲んでいるのだ。
つまりエアスピネルの日本ダービーは、親子3代にわたる悲願が懸かっているということだ。
親子2代はあっても、3代はなかなかない。それにエアデジャヴーは無冠に終わったが、娘のメサイアは秋華賞を勝った。ならば息子のスピネルもまた一族期待の末裔として、一歩前へ進化しなければならないはずだ。まさに血のロマンである。
よし、あの時のオークスの逆転を信じて、エアスピネルとリオンディーズの、それもあえて馬連を捨てて馬単で勝負しよう。
エアスピネルが2着ではなく、勝つことに意義があるのだ。
くそ、これでもしあの時のオークスの3着馬ディアデラノビアの息子のドレッドノータスも出ていれば、3頭の三連単で大儲けできたのに……。
と、スランプの今年は強がりながら、競馬の祭典を待ってみることにする。
(文=上村昭人)