C.ルメールが武豊らを全否定!? 「馬のことをわかっていない」国民的英雄ディープインパクトを破った「伝説の有馬記念」を語る
その自信の根拠は、当時を知る競馬ファンなら誰もが記憶に残っているであろう斬新な戦略にあった。
これまで後方から、上がり最速を記録すること7度。強烈な末脚を身上としていた”キレ者”ハーツクライが、まさかの先行策。結果的にこれが無敗の英雄に国内唯一の土をつけることになるのだが、この作戦は事前に考えられていたのかという質問に、ルメール騎手は「イエス」と答えている。
「天皇賞・秋、ジャパンCでの騎乗は間違っていた。馬のことをわかってあげられなかったんだと思います。そこで有馬記念で勝つには、好位につける競馬でいこうと考えたんです」
そう自らの騎乗を否定してまで決意した積極策。それは同時に、安藤勝己元騎手や横山典弘騎手、そして武豊騎手など名立たる名手が築き上げたハーツクライのこれまでのキャリアをも否定する斬新な発想だった。
「スタートから出していったんですが、上手く応えてくれました。ハーツクライはストライドの大きいパワフルな馬ですが、加速するまでに時間が掛かる。その点を考慮して、好位につけ、4コーナーから仕掛けていこうと思っていました」
如何に斬新であろうとも、競馬は結果がすべて。会心の先行策により、見事ディープインパクトの猛追を振り切ったハーツクライ。人馬共に初のG1制覇を飾り、己の正当性を証明したルメール騎手の騎乗は「天才的」と最大級の賛辞を浴びた。
「身体の内から爆発するような嬉しさでした。日本で初めてG1を勝った喜びもありました。戦略が上手くハマった気持ち良さ、色んな感情が湧いてきました」
そして、この先行策こそがハーツクライにとって最も力を発揮できるスタイルであることを、ルメール騎手は翌年のキャリアで証明している。