武豊「単勝241倍の強襲」で日本ダービーに黄色信号…スペシャルウィークという成功例の分岐点になった1998年きさらぎ賞(G3)【この日、何の日】2月8日編
1998年の2月8日。京都競馬場で行われたきさらぎ賞(G3)で、また新たなコンビが春のクラシックへ名乗りを上げた。スペシャルウィークと武豊騎手である。
レースは、単勝1.7倍の大本命に推されたスペシャルウィークの独壇場だった。中団からレースを進めた本馬は最後の直線を迎えて「どこを割っていくかだけ」(武豊騎手)という余裕の手応え。あっさりと馬群から抜け出すと、最後は後のダービー2着馬ボールドエンペラーに3馬身半差をつける圧勝劇だった。
これだけを見れば、エリートコンビが順当にクラシック戦線に名乗りを上げたようにも見える。しかし、レース後に武豊騎手が「よかったです」と胸を撫で下ろしたように、振り返ってみれば、スペシャルウィークのキャリアの分岐点といえるレースだった。
前年11月のデビュー戦で、後に重賞戦線で活躍するレガシーハンターに2馬身差をつけ、単勝1.4倍に応えたスペシャルウィーク。大種牡馬サンデーサイレンスから「また1頭大物候補が登場した」と大きな注目を集める存在だった。
しかし、続く1勝クラスでは一度除外されて優先出走権を得る目論見だった白梅賞(500万下、現1勝クラス)で、まさかの抽選突破……。予定の出走はまだ先だったが、仕上がり途上の状態で出走することになった。
レースではデビュー戦と同様、一度は馬群から抜け出して先頭に立ったスペシャルウィークだったが、ゴール前でアサヒクリークが急襲。単勝241倍の地方馬という、まさかの刺客の乾坤一擲の激走にハナ差で敗れてしまった。
陣営は1月31日のつばき賞(500万下、現1勝クラス)で仕切り直すはずだったが、あろうことか、こちらが除外になってしまう。そこで武豊騎手が格上挑戦を押して進言したのが、このきさらぎ賞出走だった。
当時28歳だった武豊騎手は稀代の天才騎手として、すでにNo.1ジョッキーの座を揺るぎないものにしていたが、大きな課題があった。
それこそが日本ダービー(G1)の制覇である。
デビュー2年目となる1988年の菊花賞でG1初制覇を飾ってから、面白いようにG1を勝ちまくっていた武豊騎手。スーパークリークに、オグリキャップ、イナリワン、メジロマックイーンなど数多のスーパーホースに騎乗していたが、何故か日本ダービーとは縁がなく、挑むこと9連敗……。特に2年前の1番人気だったダンスインザダークではクビ差の接戦を落としており、いつしか「天才・武豊でもダービーを勝てない」とジンクスが囁かれるようになった。
そんな武豊騎手にとって、スペシャルウィークとの出会いは待望のチャンスだった。日本ダービーに挑戦して敗れ続ける中で、武豊騎手は「ダービーを勝つためには、デビュー当初からダービーを意識して馬を作っていかなければならない」と考えるようになっていた。
スペシャルウィークは、そんな武豊騎手がダービーを勝つために心血を注いでいたパートナーだったが、もしこのきさらぎ賞で敗れるようなことがあれば、2月の時点で1勝クラスの身……春のクラシックへは黄色信号が灯ることになってしまう。
だからこそきさらぎ賞を勝った際、武豊騎手は「期待している馬。これで(クラシック出走の賞金的な)権利も取れたし、よかったです」と胸を撫で下ろしたのだ。
その後、スペシャルウィークは武豊騎手の期待通りに日本ダービーを制覇。武豊騎手は待望のダービージョッキーとなったが、最後はゴール前でムチを落としてしまうほど特別なレースだったそうだ。
また、後に「スペシャルウィークにダービーの勝ち方を教えてもらった」と振り返っている通り、武豊騎手にとって、この勝利は「ダービーを勝つためには、デビュー当初からダービーを意識して馬を作っていかなければならない」という持論を証明する勝利でもあった。
以降、翌年のアドマイヤベガを皮切りにタニノギムレット、ディープインパクト、キズナ、そしてドウデュースとダービーを勝ちまくる武豊騎手だが、実はデビュー戦で手綱を取っていないのはタニノギムレットとキズナだけ。前人未到の日本ダービー6勝は、武豊騎手がスペシャルウィークと作り上げた「ダービー制覇理論」の功績といえるだろう。
昨秋に園田競馬場で行われた「第30回ゴールデンジョッキーカップ」に、スペシャルウィークの勝負服で参戦した武豊騎手は「この勝負服に袖を通した時、色々な思いが過りました。特別な勝負服の一つです」と改めて特別な思いを語っている。
数々の金字塔を打ち立てるレジェンドにとっても、スペシャルウィークは後のキャリアに大きな恩恵をもたらす成功例である。そして、その分岐点となったのが26年前の2月8日、きさらぎ賞の勝利だった。
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