ぼくらはあの頃、アツかった(15) 黒猫が運んできてくれた「北斗万枚初達成」の甘い記憶。


 ソーセージ。それが筆者が猫に付けた名だ。彼か彼女かわからないが、その黒猫の額を撫で、筆者は勢いを付けて立ち上がった。戦意だ。チャージされた。やる気が満ちた。先程までの負け犬気分が失せ、レバーとボタンの感触が右手に蘇る。まだ二時。まだ二時である。閉店まではだいぶ時間がある。勝負は分からない。ソーセージに別れを告げて、K店に向った。

 近隣にWが出来るまで殿様商売をしていた地域密着の古いホールだ。Wに客を取られて廃墟にみたいになっていたが、むしろそっちの方がこういう場合は熱いかもしれない。冷静ではなかった。が、何故か確信めいた勝利の予感があった。北斗である。北斗を打たなければならない。黒ネコ。黒揃い。北斗絵柄。今日のラッキーカラーは黒。勝手にそう決めてKに向かい、着座して5ゲームくらいで中段チェリーを引いた。

 筆者は冷静だった。当たり前だと思った。なんせ俺にはソーセージが付いている。負けない。勝つのだ。小役確率やモード移行率なんて関係ない。設定すらも。もはや無意味だ。ただ演出とシステム。リールとボタンとレバーだけがあった。無心で叩く。押す。チェリーを引く。ラオウをボコボコにする。それだけである。

 北斗絵柄が揃った。ラオウが昇天した。2000枚。ボーナスが終わってすぐにごん太眉毛の革ジャン野郎が指をポキポキ鳴らす。中段チェリー。当たらないわけない。と思ったらまたすぐに当たった。ラオウが昇天した。4000枚。ソーセージ。黒揃い。6000枚。ああ猫を飼おう。黒猫にしよう。2人で窓際でひなたぼっこしよう。カリカリをいっぱいあげる。毛布に包んであげる。あっためよう。あってめてもらおう。8000枚。

──気づいたら、北斗での万枚初達成になった。

 あたりまえだ。と思った。そして思ってから、ちょっと怖くなった。筆者の長いパチスロ人生の中で、万枚を出す予感を感じながら実際に出したのはあれが最初で最後である。

【あしの】都内在住、37歳。あるときはパチスロライター。ある時は会社員。肝臓を痛めて六ヶ月の経過観察中。ブログ「5スロで稼げるか?」の中の人。

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