【特別連載③】JRAではあり得ない不正の温床に……「調整ルームなし、携帯OK」騎手、調教師らが「馬券で2億円」勝ててしまった笠松競馬の闇

前回【特別連載②】JRA安藤勝己を生んだ笠松競馬の闇。「騎手で食べていけるのは上位5人だけ」売上10年で約3倍増の絶頂期も「本当に」儲かっているのは……

 

 笠松競馬自粛直前、今年1月12日(火)の出馬表を見てみよう。

 この日は12レース、その出走頭数は第1レースから10頭、9頭、8頭、8頭、8頭、8頭、8頭、8頭、8頭、8頭、8頭、8頭。高額賞金レースで他場からの遠征馬がいなければフルゲート(12頭)となることはない。在厩頭数400頭から500頭の競馬場で平日4~5日の開催を月2回こなすとなると、この頭数で精いっぱいになる。

 おまけに地方競馬中位以下の競馬場は中央の未勝利退厩馬が殆どで、故障持ちも少なくない。馬主サイドには着順と関係なく支給される出走手当を預託料代わりにしたいと、JRAではありえない月4回出走を条件に預託する例も少なくない。故障持ちの馬を毎週出走させるとなると、調教自体は軽めにして馬に負担をかけず、レースを調教代わりに使うケースも少なくないのだ。

「狭い競馬場、厩舎地域にいれば隣の厩舎どころか、ほぼ全ての在厩馬の状態が手に取るように分かります。8頭立てのレースなら半分は、ほぼ調教代わりです。なら残った3頭、4頭を馬券3連単で購入。結果は報道されている通り、7年間で2億円の利益がありました」

 元調教師は馬券購入の首尾をこう振り返った。馬券購入は最近免許を返上して廃業した調教師夫人が勧進元になり、調教師、騎手、厩務員からの情報を元に共同購入していたという。

「笠松はJRAとは違って、レースの前日から調整ルームに入ることもありませんし、携帯での連絡を禁止されるなど外部との連絡を遮断させられることもありません。検量室、調教師室、ジョッキールームでも携帯は使えましたから、出走馬の直前の情報も調教師夫人に伝えて、他人の口座を使ってネット投票していたのです」(同前)

 ネット投票で息を吹き返した地方競馬だが、そのネット投票が不正を可能にしていたとは、なんとも皮肉な話だ。警察の捜査では、馬券購入でこれまでの7年間に約2億円の収入があり、20人近くが関与したことが明らかになっている。

 しかし、その利益2億円のうち、1億2000万円は調教師夫人の取り分となり、残りの8000万円を十数人が分けたという。1年平均で1200万円弱。10数人で分け合ったなら1人1年で100万円程度の“副収入”にしかならない。

「馬券購入が禁じられていることなど、競馬場に入る前から騎手も厩務員も叩き込まれています。しかし、若手の中位以下の騎手は毎朝30頭以上の調教をつけて、レースに命がけで乗ったって月に20万、30万円しか収入がないのです。

これでどうやって家族を養っていけるのか。自分も馬券購入に関わってしまったことはお詫びのしようもありませんが、馬券購入に手を染めてしまった若手騎手が置かれている状況から考えれば、彼らを一方的に責めることはできません。少なくとも自分には」

 主催者である岐阜県競馬組合、そして統括団体の地方競馬全国協会はレース結果から調教師、騎手成績、賞金、進上金の多寡まで、ありとあらゆるデータを管理している。

 であるならば、1着賞金27万円のレースが大半を占める中位以下の地方競馬に関わる人間がどのような経済状況にあるのか、把握していないことがあろうか? 

 であるならば、取材者、統括団体はその厳しい経済状況が競馬の“エッセンシャルワーカー”に何を決意させるのか、分からない訳がない。ただ漫然と拱手傍観していたのだとしたら、彼らもまたまったく無関係とはいえないだろう。

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