【特別連載④】JRA戸崎圭太らは「極めて稀有」な成功例……「地獄から這い出すことができた」笠松競馬など小規模地方競馬巡る「底なしの闇」の実態とは
しかし、その一方で馬券購入に対する監視態勢は全く手つかずといってもいい。ネット販売のおかげで、おそらく今年の地方競馬も売上新記録を更新することになるだろう。取材者の手に落ちる売上増の真水部分は少ないとはいえ、経済的余裕のある時にこそ、監視態勢を整えなくてはいけないのではないだろうか。
そして、何よりも馬券購入などの不正の温床になる貧困問題を解決させなければ、地方競馬は遠からず公営競馬を確保できず、信用を失い存続の危機に立たされることは間違いない。
売上増から賞金を積み増しする主催者が少なくないが、馬主がその恩恵の殆どを享受する賞金の積み増しの前に、不正の誘惑を未然にシャットアウトする措置が何よりも求められている。調教騎乗料やレース騎乗料の増額は今すぐにでも着手できるはず。それだけに留めず、経済的な措置以外にも紳士のスポーツの担い手に相応しい待遇と条件を整備しなければならない。
南関東からJRAに転じ、リーディングジョッキーにも輝いた戸崎圭太は何故JRAではなく地方競馬から騎手となったのか、と問われ「JRAの存在を知らなかった」と答えた。
戸崎は幸い地方競馬で最も条件の良い南関東でデビューし、更に幸運なことにJRAへ移籍ができた。しかし、南関東以外の競馬場に配属されれば、笠松と似たような辛酸を嘗めさせられる例は少なくない。
「自分は東京出身なので南関東に行きたかったのですが、調教師や騎手の子弟が優先されるので、その夢は叶いませんでした……」
この青年は中位以下の競馬場に配属され、馬券は購入していなかったものの、騎乗馬の情報を外部に漏洩したとの疑惑から、自ら騎手免許を返上することを強要されて廃業。今では北海道の育成牧場で働いている。
「北海道の生活は競馬場よりも快適です。収入も上がって安定しましたし、何よりも夜明け前から調教、一休みして夕方までレースという地獄から這い出すことができました。所帯も持てそうです」
屈託なく喜ぶ笑顔を見て、地方競馬は一体何をしているのか、と怒りに火が付いた。地方競馬教養センターの公式動画「騎手になるには」の冒頭には「馬に乗ると、視界(ユメ)が広がる」とのキャッチフレースが躍っている。
笠松などの過酷な現実を目の当たりにすれば、広がるのはユメなのか? 絶望なのか? と問いたくなる。<了>
<プロフィル>
売文家・甘粕 代三(あまかす・だいぞう):1960年東京生まれ。早大在学中に中国政府給費留学生として2年間中国留学。卒業後、新聞、民放台北支局長などをへて現業。時事評論、競馬評論を日本だけでなく、中国・台湾・香港などでも展開中。