JRAデアリングタクト、アリストテレス、アメリカンシードら「単勝1倍台」連敗で思い知る「競馬に絶対はない」を覆した英国の“独走レース”に衝撃
先月は弥生賞(G2)で単勝1.3倍のダノンザキッドがまさかの3着だったことを皮切りに、翌週の金鯱賞(G2)も単勝1.4倍のデアリングタクトが敗れ、さらに翌週の阪神大賞典(G2)では単勝1.3倍のアリストテレスが7着に惨敗……。
そして、先週のマーチS(G3)でも単勝1.4倍のアメリカンシードが14着に大敗するなど近頃、我々競馬ファンは毎週「競馬に絶対はない」という格言を痛感させられている。
競馬に絶対はない――。言い換えれば「競馬において絶対の勝利はない」という解釈が一般的だが、確かにディープインパクトがハーツクライに敗れた有馬記念(G1)や、タイキシャトルが単勝1.1倍で3着に敗れたスプリンターズS(G1)などの歴史も、その“正当性”を物語っている。その結果、「競馬に絶対はない」という格言に、多くの人々が自身の経験を通じて共感を抱いているわけだ。
だが本当に、競馬に絶対の勝利は存在しないのだろうか。
先月20日、英国のハンプトンパーク競馬場で行われたあるレースは、そんな競馬の絶対的な格言を覆す衝撃的な内容だった。
「1番」のゼッケンが与えられたフランスの10歳馬マクラジャは、堂々と先頭でスタートを切った。ライバルは誰もついてこない。それも当然だ、何故ならこのレースを走っているのは本馬1頭だけだからだ。
英競馬番組『Racing TV』が公式Twitterに上げた動画の中では、軽いキャンターのような足取りで、ゴールを目指すマクラジャの様子が見て取れる。そこにはまるでウイニングランのような優雅ささえ感じられるが、これは間違いなく正式なレースなのだ。
もちろんジョッキーはノーステッキ……いや、そもそもムチを持っていない。当然、レースを実況するアナウンサーもどう盛り上げていいのかわからないのか、終始抑揚のない声だ。やがてマクラジャは「completed」との実況と共に先頭でゴールした。
このレースは別のレースで除外になった馬を対象にした救済的なレースだったが、ふたを開けてみれば出走したのはマクラジャだけだった。ちなみに1着賞金は1万5000ユーロ(約200万円)。元々は20ハロン(約4000m)で行われる予定だったようだが、1ハロン(約200m)に距離が短縮されたのは、主催者側のせめてもの配慮だろう。
ちなみにJRA(日本中央競馬会)では、出馬投票の段階で5頭を下回った場合は、レースそのものが中止となる。ただ、公式HPの「馬券のルール」の中には出走予定馬の頭数として2頭(単勝以外、馬券発売なし)から記載されており、馬券発売の後の出走取消やレース直前の放馬などで頭数が減った場合にも対応できるようだ。
ただし、今回のような「1頭立て」だとどうなるのか……少なくとも馬券の発売はなくなりそうだ。
今回の英国のレースは限りなく「競馬に絶対はない」という格言の正統性を脅かしたレースと言えるのではないだろうか。ただ、そもそも競馬は文字通り「競う」ことが大前提となっており、レースとはゴールを目指して「争う」ことと百科事典に記載されている。
正式なレースであることは間違いなさそうだが、心情的にはなんだか認めたくない気持ちもある。