JRA武豊が1993年オークス(G1)で魅せた神騎乗、そして名実況!競馬の神様が指摘する「距離不安」を一蹴した名牝の記憶
馬クラシックの第2弾、オークス(G1)が23日に東京競馬場で行われる。20日には枠順が発表され、2冠を目指すソダシは6枠11番に決まった。
ソダシには、その血統からどうしても距離不安がつきまとう。今から28年前のオークスでも同じように距離不安を指摘され、牝馬2冠に臨んだ馬がいた。
アドマイヤベガやアドマイヤドンの母としても知られる名牝ベガだ。同馬はデビュー戦で2着に敗れた後、2戦目を前に武豊騎手とコンビを結成。折り返しの新馬戦を勝ち上がると、続くチューリップ賞で圧勝し、桜花賞(G1)では単勝2.0倍の圧倒的1番人気に支持された。
レースは、横山典弘騎手が騎乗したマザートウショウがハナを切ると、ベガは直後の2番手集団を追走。直線に入って早々と抜け出すと、外から急襲したユキノビジンの追撃をクビ差押さえて見事に1冠目を手にした。その後、陣営(松田博資厩舎)はダービー参戦も視野に入れていたが、結局オークスで2冠を狙うことになった。
「ベガはデビューから1800mと2000mを経験し、陣営も2400mに距離が延びるオークスには自信を見せていました。ところが、ベガの2冠達成に疑義を唱えた予想家がいました。
競馬の神様の愛称で知られた故・大川慶次郎氏です。当時フジテレビの競馬番組でレース解説を担当していた大川氏。レース直前に実況の三宅正治アナウンサーからベガに対する見解を聞かれると、桜花賞のラスト1ハロンに13秒4を要したことを根拠にベガを軽視する発言をしたのを覚えています」(競馬誌ライター)
実際に桜花賞馬でありながら、単勝オッズは3.4倍とベガに懐疑的な見方をするファンも少なくなかったが、ベガはそんな距離不安をあっさりとはねのけてみせた。
好スタートから好位の4番手外につけた武豊騎手とベガ。4コーナー手前で他のライバル馬らとともに早くも先頭に並びかけるという積極的なレース運びを見せた。
直線を向くと、同じく好位集団にいた桜花賞2着馬のユキノビジンと一騎打ちの様相を呈する。残り400mを切ったところで、先にユキノビジンが抜け出したが、武騎手が右ムチを入れるとあっさりとかわし去った。結局、ベガは先行したにもかかわらず上がり最速タイムをマーク。最後はユキノビジンに1.3/4馬身差をつけ難なく牝馬2冠を達成した。
その時に生まれたのが三宅アナウンサーから飛び出した有名すぎるあのフレーズだ。
「勝ったのは13番のベガ!西の一等星は東の空にも輝いた!6年ぶり史上9頭目の牝馬2冠達成!武豊、春のクラシック3連勝!やっぱりベガは強かった!」
武騎手はその春、皐月賞(G1)をナリタタイシンで制し、牝馬2冠とあわせて3連勝。当時24歳ですでにスタージョッキーとして大活躍していたが、その座をゆるぎないものにした瞬間だったのかもしれない。
レース後、さすがの競馬の神様も「恐れ入った」と言わんばかりに、ベガの強さを認めるしかなかったのは言うまでもないだろう。
(文=中川大河)
<著者プロフィール>
競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。