JRAスプリンターズS「29年ぶり」の珍事!? グランアレグリア不在でダノンスマッシュ、レシステンシアらが“関東ジャック”
10月3日、中山競馬場で行われるスプリンターズS(G1)。ファン待望の秋のG1シリーズ開幕戦として注目を集める「電撃の6ハロン戦」だが、今年の出走馬は関東馬が一頭もいないという“珍事”となってしまった。
ネット上では「関西馬に(中山競馬場の)場所を貸すだけ」、「関東馬がいないなら中京で開催すれば?」といった皮肉なコメントが散見されるなどの“異常事態”が発生。長い歴史と伝統を誇るG1レースの関東馬出走“ゼロ”は、2015年のフェブラリーSまで遡り、芝のG1に限定すると1992年のジャパンC以来となる、実に29年ぶりのレアケースである。
そもそもスプリンターズSに出走登録していた22頭のうち、関東馬はカイザーメランジェとショウナンバビアナの2頭だけだった。共に除外となって関東馬の出走は叶わなかった経緯がある。
昨年、このレースを制した関東馬の大将格グランアレグリアが中距離路線に進んだことで、セントウルS(G2)優勝でスプリンターズSの優先出走権を獲得したレシステンシアをはじめ、今年の短距離路線の中心となっていたのは関西勢であることは否めない。
今回出走するダノンスマッシュやモズスーパーフレア、クリノガウディーらはここ1年の短距離路線ではおなじみのメンバーであり、新興勢力となるピクシーナイトやメイケイエールの3歳勢も、すべて栗東所属馬という現状だ。
いわゆる「西高東低」の傾向は、今に始まったことではない。
歴史を振り返れば、1985年に栗東トレセン内で坂路コースが完成してから関西馬の活躍が目立つようになり、東西馬が激突するグレードレースでも好結果を出すようになった。事実、その3年後の88年には、年間の勝利数で関西馬が関東馬を逆転。こうした背景から、93年には美浦トレセン内にも坂路コースが新設されたという経緯がある。
ところが美浦の坂路を訪れた関西の騎手たちは「いつから坂路が始まるのかと思ったらゴールだった」と口にするほどの低勾配。つまり坂路でありながら、その勾配差が感じられないほどのお粗末な造りだったという笑い話もあったといい、「美浦に栗東と同じ坂路を作ったからといって、現在の東西格差が一朝一夕に解消するものではない」と、関東を代表する名伯楽・国枝栄調教師は、自身の著書『覚悟の競馬論』で見解を述べている。
こうした調教師たちの声を受けて、JRAは2018年に美浦トレセンの大規模改修に着手。19年には同トレセン内のウッドチップコースの改修工事が完了するなど、徐々にではあるが、美浦トレセンは生まれ変わりつつある。
その大規模改修の目玉のひとつに挙げられた、新坂路コースの完成目標は22年と来年に迫った。もちろん坂路コースが刷新されれば関東馬が強くなるとは限らないが、先のウッドチップコースの改修を含めて、関東馬の総合的なトレーニング効果が高まることへの期待は膨らむ。
インターネット投票が当たり前となり、在宅競馬が定着して、急増したといわれる競馬ファン。『netkeiba.com』の発表によれば、先週のオールカマー(G2)の売上は67億円を超え、昨年からおよそ21億円も増加したという。当然、秋のG1開幕戦のスプリンターズSでも売上増が予想されるなかでの関東馬不在は、やはり競馬ファンにとっては寂しい事態だ。
新たなファンが増加傾向にある今こそ、その熱を冷まさないためにも、30年以上も続く東西格差が一日でも早くなくなることに期待したい。
(文=鈴木TKO)
<著者プロフィール> 野球と競馬を主戦場とする“二刀流”ライター。野球選手は言葉を話すが、馬は話せない点に興味を持ち、競馬界に殴り込み。野球にも競馬にも当てはまる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」を座右の銘に、人間は「競馬」で何をどこまで表現できるか追求する。