JRA観戦記ダイワスカーレットVSウオッカ。歴代最高の秋華賞で永遠のライバル激突!

 今週行われる秋華賞(G1)は、今年で26回目と歴史はそれほど深くない。

 それでも幾度となく名勝負が繰り広げられてきたレースであり、優勝馬はアーモンドアイ、ジェンティルドンナ、デアリングタクト、アパパネ、ダイワスカーレット、メジロドーベル、ファインモーション、スイープトウショウなど、いずれも日本の競馬史に残る名牝ばかりだ。

 これまで行われた25回の中で「最もレベルの高いレースはどれか」と聞かれれば、それは2007年と断言していい。この年の出走馬は、今後現れないと言っても過言ではないほどの豪華メンバーだったのである。

 この年の3歳牝馬戦線はまさに逸材が揃っていた。

 暮れの阪神JF(G1)を制し、牝馬として64年ぶりに東京優駿・日本ダービー(G1)を制したウオッカ。桜花賞(G1)でウオッカを完封したダイワスカーレット。NHKマイルC(G1)を17番人気で勝利し3連単973万円馬券の立役者となったピンクカメオ、そして優駿牝馬・オークス(G1)を勝利したローブデコルテ。

 G1の勝ち馬は4頭で、その勝利数は5とまさにオールスターが集結。桜花賞やオークスの牝馬二冠優勝馬だけでなく、NHKマイルCや日本ダービーの勝ち馬も含まれているのだから、まさに歴史に残る一戦であったのは間違いない。さらにトライアルを勝ち上がったアルコセニョーラやオークス2着のベッラレイア、夏の上がり馬タガノプルミエールやヒシアスペンなど、ファン注目のメンバーが揃った。

 注目を集めたのはライバルのウオッカとダイワスカーレットだ。

 チューリップ賞(当時G3)でダイワスカーレットを子ども扱いにしたウオッカを、桜花賞でダイワスカーレットが見事な作戦勝ちで抑え、ここまで1勝1敗と互角の成績。感冒でオークスを回避したダイワスカーレットと、牝馬ながら日本ダービーへ挑戦し、見事偉業を成し遂げたウオッカ。JRAの覇権を争う2頭の第3ラウンドに誰もが注目した。

 1番人気は当然のことながら、日本ダービー馬ウオッカで単勝2.7倍。前走の宝塚記念(G1)で敗退したが、古馬の強豪相手であったこと、雨による馬場悪化などが敗因とされており、牝馬同士であれば負けられないと誰もが認識していた。

 そして2番人気は桜花賞とローズS(G2)を制したダイワスカーレットで、単勝は2.8倍とその差はわずか。オークスを回避したものの、トライアルのローズSを難なく勝利しており、順調度で言えば同馬の方が上とみる向きもあった。

 この2頭から差のない単勝3.8倍の3番人気が、武豊騎手のベッラレイア。ただしこの人気は、武豊騎手が騎乗したことが大きく影響したとも言え、実際は多くのファンがウオッカとダイワスカーレットのワンツーフィニッシュをイメージしていたのである。

■2007年秋華賞・出走馬

1番ヒシアスペン
2番ミンティエアー
3番ブリトマルティス
4番ザレマ
5番ラブカーナ
6番カレンナサクラ
7番ピンクカメオ
8番マイネルーチェ
9番アルコセニョーラ
10番ハロースピード
11番ベッラレイア
12番ホクレレ
13番ダイワスカーレット
14番タガノプルミエール
15番クィーンスプマンテ
16番ウオッカ
17番レインダンス
18番ローブデコルテ

 レース当日は晴れ。歴史的一戦を見るべく、京都競馬場には多くの競馬ファンが訪れた。そしていよいよ運命のレースがスタートする。

 好スタートを決め、先手を取ったのは3連勝中の上がり馬ヒシアスペン。ダイワスカーレットも好スタートから難なく先行し、少しかかりながらヒシアスペンをマークする形で2番手を確保する。ウオッカは後方から4番手で最初のコーナーを回り、道中は縦長の展開となる。

 その後、隊列は動かず坂の登りでも仕掛ける馬は不在。淡々と第3コーナーを回っていく。落ち着きを取り戻したダイワスカーレットはヒシアスペンのすぐ後方に位置し、いつでも抜け出せる状態。そして第4コーナーに入る直前に、ダイワスカーレットはヒシアスペンを交わし先頭に躍り出る。鞍上はアンカツこと安藤勝己騎手で、その手綱は持ったまま、カメラ越しでも手ごたえ十分であり、この時点で勝負はあったといえよう。

 1番人気ウオッカが動いたのは第4コーナーを回りきる前、この時点で先頭に立ったダイワスカーレットとの差は約5馬身。しかし抜け出したダイワスカーレットの脚は鈍らない。そして京都の芝2000mは内回りコースで直線は328.4mと短い。加えて開幕2週目の良馬場というコンディションもダイワスカーレットに大きく味方し、2番手から上がり33秒9の脚を使われては、どの馬も同馬を交わすことはできなかった。

 2着に入ったのはローズSで3着に好走して権利を取得した、7番人気の伏兵レインダンス。第4コーナーで4番手まで押し上げる武幸四郎騎手の好判断が光った。そしてウオッカは上がり33秒2の脚を使うも3着まで。4コーナーでも12番手という道中の位置取りが敗因といえ、鞍上の四位洋文騎手はファンやマスコミから批判を浴びることになる。そして4着は武豊騎手のベッラレイアであった。


■秋華賞・着順

1着ダイワスカーレット
2着レインダンス
3着ウオッカ
4着ベッラレイア
5着ラブカーナ
6着カレンナサクラ
7着ミンティエアー
8着ハロースピード
9着マイネルーチェ
10着ローブデコルテ
11着アルコセニョーラ
12着クィーンスプマンテ
13着ブリトマルティス
14着ピンクカメオ
15着ザレマ
16着タガノプルミエール
17着ホクレレ
18着ヒシアスペン


 以上のようにライバル対決はダイワスカーレットの完勝で幕を閉じた。この時点では確かにダイワスカーレットが上であったが、この2頭はおよそ1年後の天皇賞・秋(G1)で激戦を演じ、わずか2cm差の攻防を制してウオッカが雪辱する。

 それが2頭にとって最後の戦いとなる。生涯戦績は5戦してダイワスカーレットの3勝、ウオッカの2勝、そのうち3度が2頭のワンツーフィニッシュという、まさに永遠のライバル関係にあった。

 ウオッカは天皇賞・秋、ジャパンC(G1)、安田記念(G1)などを制し最強馬の道を歩むが、ダイワスカーレットもまた、有馬記念(G1)を勝利するなど、その強さを世に知らしめた。

 今では人気競馬アプリ『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)で新たな人気を博しているが、あの秋華賞当時にその後の2頭の活躍をイメージできたファンはどれほどいただろうか。

 一方でピンクカメオとローブデコルテのG1馬2頭は、その後一度も勝利することなく引退と明暗を分けた。2007年の秋華賞は4頭のG1馬が揃った豪華な一戦であったが、その後は極端な競走馬生活を歩んだのである。また12着だったクィーンスプマンテがその後エリザベス女王杯(G1)を勝利するなど、古馬になって素質を開花させた馬もいた。2007年の秋華賞に出走した馬は、後に合計8つのG1レースで勝利を成し遂げたのである。

 今年で26回目を迎える秋華賞には、白毛の女王ソダシを筆頭に、2010年の秋華賞馬アパパネの娘アカイトリノムスメや、1996年の秋華賞で1番人気ながら大敗したエアグルーヴを祖母に持つアンドヴァラナウト、1997年の秋華賞馬メジロドーベルを祖母に持つホウオウイクセルなど、何かと秋華賞と縁のある馬が出走する。

 果たしてどんなドラマが待っているのか、このレースをステップにどんな馬が素質を開花させるのか、歴史に残るレースを期待したい。

(文=仙谷コウタ)

<著者プロフィール>
初競馬は父親に連れていかれた大井競馬。学生時代から東京競馬場に通い、最初に的中させた重賞はセンゴクシルバーが勝ったダイヤモンドS(G3)。卒業後は出版社のアルバイトを経て競馬雑誌の編集、編集長も歴任。その後テレビやラジオの競馬番組制作にも携わり、多くの人脈を構築する。今はフリーで活動する傍ら、雑誌時代の分析力と人脈を活かし独自の視点でレースの分析を行っている。座右の銘は「万馬券以外は元返し」。

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