JRA『ウマ娘』ゴールドシップの原点ここにあり! 圧巻の追い込みを見せた2012年菊花賞
今週はいよいよ3歳クラシック最終戦の菊花賞(G1)だ。10月20日に人気競馬ゲームの『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)にて、菊花賞馬マンハッタンカフェが実装されたこともあり、競馬もゲームも菊花賞が大盛り上がりとなっている。
この『ウマ娘』を見てみると、かなり多くの菊花賞馬が登場する。そのキャラクターは以下の通り。
■ウマ娘に登場する菊花賞馬
エアシャカール
キタサンブラック
ゴールドシップ
サトノダイヤモンド
シンボリルドルフ
スーパークリーク
セイウンスカイ
ナリタブライアン
ビワハヤヒデ
マチカネフクキタル
マヤノトップガン
マンハッタンカフェ
メジロマックイーン
ライスシャワー
どれも思い出深い名馬ばかりだが、この中で異色のキャラクターがゴールドシップだ。ゲームの設定を見てみると
「思いつくままに行動し、面白おかしく生きる自由人。隙あらばボケ、ツッコミ、熱くなり、すぐ冷める。トレセン学園一のトリックスター」
と紹介されている。確かに現役時のゴールドシップは、圧倒的な強さを見せたかと思えば、レース直前になって突拍子もない行動をとるなど、年を重ねるごとに難しい馬になってしまった。5歳春の天皇賞では、ゲート入り後に立ち上がって唸り声を出すなど怒りだし、その影響もあってかスタートで大きく出遅れて敗退。さらに翌春の天皇賞でもゲート入りを嫌がり、枠入り不良で発走時刻が4分遅れたが、レースはフェイムゲームをクビ差退けて辛勝。続く宝塚記念(G1)は、ゲート内で他馬を威嚇するように立ち上がるなどして落ち着きを失い、大出遅れで15着に敗退している。
そんなゴールドシップがトリックスター(奇術師)と評される衝撃のレースを見せつけたのは、2012年の菊花賞だろう。
初のG1制覇となった皐月賞は4番人気の評価であり、どちらかといえば他馬が外を回る中、インを突いた内田博幸騎手の好騎乗が光ったレース。続く日本ダービー(G1)は5着と期待を裏切っただけに、皐月賞の結果をフロック視する声もあったほど。そんな外野の喧騒を結果で黙らせたのが、この菊花賞であった。
この年の菊花賞は日本ダービーの1着ディープブリランテ、2着フェノーメノ、3着トーセンホマレボシ、さらに皐月賞2着ワールドエースも回避と、春のクラシックでゴールドシップと接戦を演じたライバルが不在。出走馬18頭中、重賞勝ち馬はゴールドシップとコスモオオゾラの2頭しかいないというメンバーだった。さらにゴールドシップ自身が前走の神戸新聞杯(G2)を快勝したこともあり、単勝1.4倍という断然の1番人気に支持されたのである。
レースはまさしくゴールドシップの独壇場だった。スタートはうまくゲートを出たが、行き脚が付かず鞍上の内田騎手は最後方まで下げる。最初のスタンド前は17番手で追走し、1コーナーを回って2コーナーまでは動かない。しかし向こう正面に入って内田騎手はゴールドシップにゴーサインを出す。なんと坂の登りから仕掛けて中団に上がり、坂の下りで勢いをつけると、第4コーナーでは早くも先頭に躍り出る。並の馬なら直線でスタミナが切れるが、ゴールドシップの脚は止まらない。向こう正面から追い通しだったにも関わらず、上がり最速の、しかも出走馬中唯一となる35秒台の豪脚で駆けているのだ。
2着スカイディグニティ、3着ユウキソルジャーで勝ちタイムの3分2秒9は、前年に三冠を達成したオルフェーヴルと0.1秒差という優秀な時計だった。
まさに前代未聞の奇襲作戦。レース後は「常識破り」「掟破り」などと、これまでの菊花賞を覆すレース内容が大きく取り上げられた。向正面に上り坂と下り坂がある京都の外回りコースは、この坂をゆっくり登ってゆっくり降りるのが定石。しかし鞍上の内田騎手は坂の入り口から仕掛け、見事勝利に導いたのだ。ゴールドシップはそれまで京都コースを走ったことがなかった。初のコースでこの戦法が取れたのは、内田騎手のゴールドシップへの信頼以外に理由はあるまい。
今年の菊花賞は、皐月賞馬のエフフォーリアが天皇賞・秋(G1)へ、日本ダービー馬のシャフリヤールがジャパンC(G1)へ向かうため、G1馬が不在という混戦レース。その中でゴールドシップ産駒のヴェローチェオロの出走が決定。同馬の前走は、父の菊花賞を彷彿させる最後方からのまくりを見せて快勝。しかも厩舎はゴールドシップと同じ須貝尚介厩舎というのも運命を感じる。混戦模様の菊花賞だけにチャンスは少なくない。父のようなアッと驚くトリックを見せてもらいたい。
(文=仙谷コウタ)
<著者プロフィール>
初競馬は父親に連れていかれた大井競馬。学生時代から東京競馬場に通い、最初に的中させた重賞はセンゴクシルバーが勝ったダイヤモンドS(G3)。卒業後は出版社のアルバイトを経て競馬雑誌の編集、編集長も歴任。その後テレビやラジオの競馬番組制作にも携わり、多くの人脈を構築する。今はフリーで活動する傍ら、雑誌時代の分析力と人脈を活かし独自の視点でレースの分析を行っている。座右の銘は「万馬券以外は元返し」。