JRA「究極の選択ミス」福永祐一VS M.デムーロ、19年越しのリベンジ!? 日本ダービー(G1)を獲り逃がした屈辱から「立場逆転」の大チャンス

福永祐一騎手

「今までにこんな男馬に乗ったことがない。G1級ですよ」

 今から20年前の2002年。25歳という若き日の福永祐一騎手は、デビュー戦を終えたばかりの若駒を絶賛した。そんなジョッキーの期待通り、ネオユニヴァースは翌年に皐月賞(G1)と日本ダービー(G1)を制す2冠馬となる。

 しかし、その鞍上に福永騎手の姿はなかった。「G1級」ではなく、すでに「G1馬」であるエイシンチャンプの主戦を務めていたからだ。

 2003年は「福永祐一の年になる」と期待されていた。

 天才と称された福永洋一騎手の息子として、鳴り物入りでデビューして8年目のシーズン。順調にトップジョッキーへの階段を上っていた福永騎手は、前年12月に阪神ジュベナイルF(G1)と朝日杯フューチュリティS(G1)のダブル制覇という離れ業を達成。最強の布陣でクラシック初制覇に挑む一年が幕を開けた。

 ところが2月を迎えたところで、無敗の2歳女王ピースオブワールドが骨折により戦線離脱……。そして“片翼”を失った福永騎手に突きつけられたのが、牡馬クラシックに挑む「究極の選択」だった。

 ここまですでに10戦という2歳王者としては異例のキャリアながら、朝日杯FSだけでなく、皐月賞トライアルの弥生賞(G2)も制したエイシンチャンプ。片や4戦3勝できさらぎ賞(G3)を制したネオユニヴァースは、育成時から社台ファームが絶賛する大器だ。

 幸運にも2頭を管理していたのは、瀬戸口勉厩舎だった。北橋修二厩舎所属の福永騎手だったが、瀬戸口調教師は第2の師匠と呼べる存在。当時は交渉代理人となるエージェント制度も昨今ほど幅を利かせておらず、福永騎手には純粋に2頭を選ぶ権利があった。

 結果、馬そのものだけでなく、北橋調教師、瀬戸口調教師ら関係者との義理を重く見た福永騎手はエイシンチャンプを選択した。しかし、その選択は完全に裏目となり、M.デムーロ騎手と新コンビを組んだネオユニヴァースが春の二冠馬に輝いたことは、多くの競馬ファンが知るところだろう。

 あの“究極の選択ミス”から19年後の今年、実は同じような選択を迫られた騎手がいる。かつて短期免許でネオユニヴァースと二冠を制し、日本の競馬ファンにその名を知らしめたデムーロ騎手である。

M.デムーロ騎手 撮影:Ruriko.I

「どっちも乗りたいからねぇ。困った(苦笑)」

 デムーロ騎手がそう頭を抱えたのは『netkeiba.com』で好評連載中の『Road to No.1 M.デムーロ世界一になる』における1月のインタビューだった。

 詳細は本インタビューを読んでいただきたいが、フェアリーS(G3)でデムーロ騎手が今年最初の重賞勝利を飾ったのがライラックだ。デビュー当初から「すごい能力!」と絶賛している逸材でフェアリーSも「これはスゴイ! 楽勝」だったという。

 しかし、デムーロ騎手は昨年の阪神JFを勝って2歳女王に輝いたサークルオブライフの主戦。G1級の新鋭か、2歳王者か……「困った」と頭を抱えるのは、19年前の福永騎手とそっくりだ。

 結果、デムーロ騎手は“あの時”の福永騎手と同様に2歳王者を選択。だがよりによって、選ばれなかったライラックが福永騎手との新コンビで桜花賞(G1)へ向かうのだから、まさに19年前と真逆の立場ということになる。

「そりゃ後から言われましたよ」

『Number Web』の取材に19年前をそう振り返った福永騎手は「アホやな、なんであっち乗らへんかってん」と笑い者にされたという。その後、ワグネリアンとのコンビで日本ダービー制覇を成し遂げたのは2018年。騎手23年目にしての初制覇、そして父・洋一さんも勝てなかったことで当時「福永家の悲願」と報じられた。

 だが、もし8年目のネオユニヴァースで3歳馬の頂点に立っていれば、福永騎手が涙することはなかっただろうし「悲願」とは言われなかったかもしれない。

 果たして、今春のクラシックで笑うのは再びデムーロ騎手なのか。それとも今や日本を代表するジョッキーに成長した福永騎手なのか。19年越しの“リベンジ決戦”に注目したい。

(文=浅井宗次郎)

<著者プロフィール>
 オペックホースが日本ダービーを勝った1980年生まれ。大手スポーツ新聞社勤務を経て、フリーライターとして独立。コパノのDr.コパ、ニシノ・セイウンの西山茂行氏、DMMバヌーシーの野本巧事業統括、パチンコライターの木村魚拓、シンガーソングライターの桃井はるこ、Mリーガーの多井隆晴、萩原聖人、二階堂亜樹、佐々木寿人など競馬・麻雀を中心に著名人のインタビュー多数。おもな編集著書「全速力 多井隆晴(サイゾー出版)」(敬称略)

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