JRA「短距離血統」「ノド鳴り」ジオグリフの日本ダービー(G1)挑戦は不安しかないのか。ノーザンファーム場長が仄めかした「大逆転の二冠」のシナリオ

ジオグリフ

 20日、先日の皐月賞(G1)を制したジオグリフ(牡3歳、美浦・木村哲也厩舎)が、引き続き福永祐一騎手とのコンビで日本ダービー(G1)へ向かうことがわかった。所属するサンデーサラブレッドクラブが公式ホームページで発表している。

 皐月賞馬が日本ダービーへ向かう毎年恒例の既定路線。特に真新しい情報ではないが、やはりこういうニュースを見るとホッとする。これで今年の日本ダービーの盛り上がりも、まずは一安心といえるだろう。

 だが、その一方でジオグリフの2400m挑戦を不安視する声は少なくない。

 

「短距離血統」「ノド鳴り」ジオグリフの日本ダービーは心配?

 

 皐月賞は古くから「はやい馬が勝つ」と言われている。1つは仕上がりが「早い馬」、つまりは現時点での完成度が問われており、もう1つはスピード、つまりは「速い馬」であることもクラシック第1戦を制すための重要な要素だ。

 実際に、古くはジェニュインやダイワメジャーといった皐月賞馬が、古馬になってマイルG1を制覇。最近でもイスラボニータやロゴタイプといったところは、後々マイルで良績を残している。

 2歳時に2000mのホープフルS(G1)ではなく、1600mの朝日杯フューチュリティS(G1)を選択したジオグリフもまた、高いマイル適性を秘めている可能性がある。そして、それは逆に2400mへの対応を不安視させるものだろう。

 その一方で、父がブリーダーズCスプリント(G1)などを勝った「ドレフォンだから」という不安説は、やや短絡的と言わざるを得ない。

 確かにドレフォンは、2016年にエクリプス賞チャンピオンスプリンター牡馬を受賞したほどの超一流の短距離馬だった。しかし、例えばかつて日本で一世を風靡したエンドスウィープは、米国で1400mのG3を勝ち、ブリーダーズCスプリントにも挑戦したほどのスプリンターだ。

 だが、日本ではサウスヴィグラス(JBCスプリント)といった「まさに」という産駒を出した一方、スイープトウショウ(エリザベス女王杯)、アドマイヤムーン(ジャパンC)といった2000m以上のG1馬も輩出している。

 ドレフォンの父ジオポンティはアーリントンミリオン(G1)を勝ち、ドバイワールドC(G1)でも4着した中距離馬。母の父ゴーストザッパーはブリーダーズCクラシック(G1)を制した名馬であり、産駒にもドバイWCを勝ったミスティックガイドがいる。ドレフォンの血統背景は、決してスタミナに乏しいというわけではないのだ。

「ジオグリフの母アロマティコは、エリザベス女王杯や秋華賞(G1)で3着した中距離馬でした。1つ上の兄にはモーリス産駒ながら2000m以上の距離で活躍するアルビージャがおり、血統的にジオグリフが2400mをこなしても何ら不思議はないですね。ドレフォンは昨夏に初年度産駒がデビューしたばかりですし、短距離種牡馬と決めつけてしまうのは早計かと。個人的には、ダービーで人気が落ちるようなら逆に美味しいと思っています」(競馬誌ライター)

 その一方で、距離延長に向けてジオグリフが抱える大きな問題が「ノド鳴り」である。

 喘鳴(ぜんめい)症と呼ばれ、文字通り走行中に喉が鳴って呼吸に悪影響が出るノド鳴りは、今でも数多くのホースマンが頭を抱えている問題の1つだ。かつてノド鳴り持ちのダイワメジャーと共に皐月賞を勝ったM.デムーロ騎手も『netkeiba.com』のコラム内で「長い距離はダメです。苦しいです。だから、ノド鳴りの馬は、だいたい1200mとか短距離がメインになりますね」と話している。

 またノーザンファーム天栄で場長を務める木實谷雄太氏によると、ジオグリフがホープフルSではなく朝日杯FSを選択した背景にも、ノド鳴りが関係していたという。これらを踏まえると、ジオグリフのダービー挑戦はやはり厳しいと言わざるを得ない。

 しかし、ならば何故、ジオグリフは2000mの皐月賞で世代トップレベルに打ち勝つことができたのだろうか。そのヒントが血統評論家の水上学氏の『水上学のKEIBA大学』に出演した木實谷氏のコメントに隠されている。

「(喉鳴りの症状が)いつ表面化するかわからない、影響が出ないことを祈るのみ」

 これは皐月賞前のジオグリフについて語ったものだが、逆に言えば本馬のノド鳴りは「まだ表面化しておらず」「レースにも影響が出ていない」ということになる。

「(上記のコラム内で)デムーロ騎手が『音がしていてもちゃんと息が入る馬もいれば、音がしないのに息が入らない馬もいる』と語っているように、ノド鳴りの兆候が出たからといって、必ずしもすぐに呼吸に大きな悪影響が出るとは限らないということ。実際に、ダイワメジャーもノド鳴り持ちの状態で皐月賞を勝ちましたし、ジオグリフもノド鳴りが表面化さえしなければ、ダービーでも能力を100%発揮できるはずです」(同)

 無論、ノド鳴りがいつ表面化するかわからない不安要素はあるものの、逆に表面化さえしなければ、あの皐月賞を制したジオグリフ本来の走りが見られるということだ。「血統面」や「ノド鳴り」などで距離延長を不安視されている今年の皐月賞馬だが、軽視していると再び痛い目に遭うかもしれない。

(文=大村克之)

<著者プロフィール>
 稀代の逃亡者サイレンススズカに感銘を受け、競馬の世界にのめり込む。武豊騎手の逃げ馬がいれば、人気度外視で馬券購入。好きな馬は当然キタサンブラック、エイシンヒカリ、渋いところでトウケイヘイロー。週末36レース参加の皆勤賞を続けてきたが、最近は「ウマ娘」に入れ込んで失速気味の編集部所属ライター。

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