JRA「単勝1倍台キラー」にC.ルメールも戸崎圭太もお手上げ!? 変幻自在の神騎乗に映る、偉大なる名手のDNA
単勝1倍台、それは多くの場合、レースの絶対的存在である事を意味する。跨る騎手はプレッシャーと戦い、多くの競馬ファンはその本命馬と馬券で心中する。数々の歴史的名馬達が経験してきた宿命でもある。
しかしその一方で、絶対的な本命馬を翻弄し、鮮やかに勝ちをさらってしまう騎手も存在する。
過去には、セイウンスカイとのコンビで皐月賞(G1)と菊花賞(G1)の2度に渡り単勝1倍台のスペシャルウィークを破るなど、これまで記憶に残る数々の名騎乗を見せてきたのが、名手・横山典弘騎手だ。
先週末、我々はそんな名手のDNAの恐ろしさを目撃することとなった。
横山和生騎手による変幻自在の「大本命」狩り
24日、東京競馬場で行われた全12レースは、とにかく堅い決着が予想されるレースばかりだった。単勝1倍台の支持を集めた馬が、合計7頭もいたのだ。統計上、単勝1倍台の馬の勝率は約50%前後という数値に大体落ち着くらしいが、この日は7頭中5頭が勝利と猛威を振るった。
そんななかで敗れてしまった2頭は、8Rで単勝1.8倍に支持された戸崎圭太騎手のセラフィナイトと、9Rで単勝1.7倍に推されたC.ルメール騎手のボーデンだった。両馬とも前走の同級クラスで3着内に好走していることから人気を背負うのも当然だった。
これら圧倒的な人気2頭をいずれも粉砕したのは、名手・横山典騎手を父に持つ横山和生騎手だった。
8Rの1勝クラスでは、4番人気のココリホウオウに騎乗した同騎手。12頭立ての芝1600mで行われた一戦は、外目の10番枠から好スタートを決めると、そのままスッとハナを奪う。
スタートから3ハロンを36秒8のスローペースに落とし込むと、断然人気のセラフィナイトを尻目に、抜群の手応えで最後の直線へ。開幕週の絶好の馬場コンディションを味方に、最後まで脚色は衰えることなく後続を完封した。
道中は巧みなスローペースを作り出し、先頭ながらラスト3ハロンは上がり最速の33秒5の脚を使われては、完全に横山和騎手の術中にハマったと言わざるを得ない。圧倒的人気馬だろうが打つ手はなく、逃げた経験のない馬で意表をついた奇策は、どこか父である横山典騎手を彷彿とさせる、まさに神騎乗だった。
そして、直後の9R石和特別(2勝クラス)でも勢いは止まらなかった。
デビュー当初からクラシック候補との呼び声もあったボーデンや、昨年の神戸新聞杯(G2)で3着に好走し、菊花賞では自身が騎乗した経験のあるモンテディオなどの強敵が顔を揃えるなか、このレースでも4番人気の牝馬ドンナセレーノに騎乗した横山和騎手。
10頭立ての芝1800mで行われたレースのスタートが切られると、1枠1番という好枠から断然人気のボーデンを横目に、先ほどとは打って変わって中団よりやや後方を追走。
逃げたニシノガブリヨリが後続を離してレースを引っ張るなか、4コーナーでは上位人気馬達を前に見る形で最後の直線に入る。
残り300m付近でボーデンが早くも先頭に立って押し切りを図ろうとするも、一気にエンジンが掛かったドンナセレーノが外から猛然と追い上げ、最後は計ったようにゴール手前で差し切った。
単勝1倍台に支持された絶対的存在2頭を相手に、異なる戦法で勝利を収めた横山和騎手に対し、ネットの掲示板やSNSでは「素晴らしい騎乗」「決め打ちは親父譲り」など称賛の声が相次いだ。
今年はすでに小倉大賞典(G3)のアリーヴォ、日経賞(G2)のタイトルホルダー、アンタレスS(G3)のオメガパフュームと重賞で3勝を挙げる大活躍を見せており、全国リーディングでも9位と好調が目立つ。
今週末に行われる天皇賞・春(G1)では、タイトルホルダーに騎乗予定の横山和騎手。現時点で『netkeiba.com』の予想オッズでは、単勝1倍台想定のディープボンドに次ぐ2番人気となっており、過去3度もこのレースを制している父・横山典騎手との天皇賞親子制覇にも期待がかかる。
大舞台においても、断然人気馬を翻弄するような父親譲りの名騎乗を披露する日は、すぐ目の前なのかもしれない。
(文=ハイキック熊田)
<著者プロフィール>
ウオッカ全盛期に競馬と出会い、そこからドハマり。10年かけて休日を利用して中央競馬の全ての競馬場を旅打ち達成。馬券は穴馬からの単勝・馬連で勝負。日々データ分析や情報収集を行う「馬券研究」三昧。女性扱いはからっきし下手だが、牝馬限定戦は得意?